夜をこえて朝を想う
「もう少し、飲むか。」

そう言って、注いでくれる。

日本酒は、結構まわる。

デザートを最後に

酔った私を見てだろう

「直ぐにお布団、ご用意致しましょうか?」

中居さんがそう言った。

「お願いします。」

彼が即答した。

あっという間に食事のテーブルが片され

あっという間に布団が二組敷かれた。

ドアが閉まると同時に、彼が口を塞ぐ。

「せっかちだなぁ。清水部長。」

いつかのセリフも…こうも違うものか。

そうは言っても、私も早く…触って欲しかった。

「いいね、浴衣。そそる。」

「じゃあ、着とくけど?」

「脱がすのが。」

「今、お腹出てる。」

食べ過ぎたから。

「よしよし、しっかり食べたな。」

「でも、お酒入ると気持ちんだよね。」

あの日も、気持ち良かった。凄く。

お酒のせいだけではなかったけど。

「もっと、気持ちよく…」

そう言いながら、探る様に手を動かす。

「…せっかち。」

「そらね。後で、風呂入るから…」

「うん。」

「気兼ねなく、舐めまわせる。」

それは、いつも。

と、遠くで思った。

「もうね、何されても気持ちいいの。何でだろ。」

身体の力がどんどん抜けて

何も考えられなくなる。

「…愛だろ、愛。」

「ん、俊之大好き。」

「俺も。」

そっか、愛があれば、こんなに気持ちいいんだ。

高等なコミュニケーション、なんだもんな。

………露天風呂の岩上に座って空を見ていた。

真っ黒な海。

室内の電気を消すと、薄暗いライトだけ。

月も星も…

綺麗。

私の前にいる人も。

あの日と同じように、濡れた髪を後ろに流し

熱っぽい、深い色の瞳。

…真っ直ぐ私を…見る瞳。

あの日と…同じ。

…なんて、綺麗。

「夢を見ているみたい。」

「それ、嫌いだ。」

ああ、そっか。

「ごめんなさい。」

「夢は、こんなに熱くはない。」

そう言って、唇と、ほんの少し出した舌で私の首をなぞって…軽く吸い付く。

「ちょ、そこ…」

「愛してる、湊。」

「うん。」

「そろそろ一緒に住まないか?」

「ぶ、そろそろの使い方おかしい。まだ、こんな関係になって…日も浅いよ。」

「こんな関係って?」

「…恋人…。」

私がそう言うと

彼は凄く凄く凄く…嬉しそうに、笑った。

じわりと滲む涙に

「泣き虫だなぁ、湊。」

そう言って、優しいキスをくれた。

出逢ったあの日と同じ、優しいキスを。

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