夜をこえて朝を想う
「湊も、このへんだっけ?」

「うん、あっちの筋だけど。」

「あれ、湊…苗字“皆川”?」

「うん、親のセンス疑うでしょ?本当嫌。」

そうか、私の苗字も知らなかったか。

ま、いいか。知らなくても。

“湊”何の躊躇いもなく呼ばれる名前。

躊躇う相手じゃない。

元カノの友達。それでいい。

「みなみなだね。」

「そう、ずっとあだ名それ。もう、早く結婚して苗字変えたーい。」

「湊って彼氏いるんだっけ?」

急に何だろう。

「あ、それ…口説いてますかー?」

茶化す。

「単純な、興味。」

「ですよねー。いませーん。ずーっと。」

「ずっと?何やってんの。」

「何?何って…親友()の心配。かれこれ3年。」

「…間違いない。ありがと。」

「いや、ごめん。そんなつもりじゃなくて…モテなかっただけ。」

「…そんな事ないだろ…。」

「うん、モテた。かなり…。」

「ぶ!なんだよ。モテたんじゃん。好きな人でもいんの?」

「…向こうにね。」

「どーゆーこと?」

「彼女持ちとか、既婚者ばっかりにモテる!」

「…それは…それで、付き合ったりするの?」

「…1回だけ。」

「……。」

「知らなかったの。男の人って本命じゃなくても、平気で“好きだ”とか“愛してる”とか言うでしょ?信じちゃって…」

「別れたの?」

「別れたよ。逃げたわ。傷つく人がいるのに、よくも…

それから、そんな人ばっかり。別れるからって言うの。別れてから来いよ。って思わない?

他に相手がいるって言ってから、私に来るってことは…あっちが本命なのよね。

2番目。まあ、どっちみち、そんな男は断るけど。」

「たまたまだよ、まともな奴だって…」

「“そんな女”なんじゃない?私が。」

恥ずかしくなって、俯いてそう言った。

「湊、そんな事…」

なんて、つい自分の話をしてしまった。

必要ないのに。

だから、ちょうど梓が出て来てくれて良かった。

「あっ、梓!!!!」

そう叫ぶと、すぐさま梓の腕を掴んだ。

「…湊…ごめんね。」

梓はそう言うと、私の隣にいるのが一体誰なのかを

ようやく理解したらしく、そこから

暫く動かなかった。

「会いたかったよ、梓。」

吉良くんの言葉に

ぶわっと涙が溢れた。

梓が、無事でいてくれた事にも。

そんなに私に、またしてもハンカチを渡してくれた。

「済まない、吉良殿。」

そう言うと、梓が吹き出した。

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