夜をこえて朝を想う
「飯でも行く?」

彼のお誘い。もう、終わったのに。

「いいの?…彼女…」

「いない。」

いない?

梓は?あの彼女は?

…誤解、誤解されて…やっぱり、あの日…

「やっぱり、あの…私ね、あの…」

ここで、ここでいいから話を…

「とりあえず、飯!」

吉良くんに促されるまま、駅前の店に入った。

申し訳無さすぎる。

「今日、私に奢らせて?」

「はぁ、いいわ、そんなん。」

「この前から、ずっとご馳走になってるし…」

「あのねぇ、俺達の事に、お前が、付き合ってくれてんだよ。しかも、3年以上も。何回奢っても足りねえくらいだろ?」

「でも…」

「奢られるなら、帰る。」

「あ…ありがとう。」

優しいな、吉良くんは。

「うん。」

「この前…梓と…」

「ああ、無事に送り届けて来たよ。誰だっけ、名前…えーっと…」

「浜川さん!?」

そっちに行ったの?梓。

「あー…そうそう。」

「元サヤったんじゃないの?」

「はぁ?聞いてないの?梓から。」

「…うん。私…」

そう言うと、軽く噛んだ唇が震え出す。

吉良くんが慌てて、私を奥に移動させた。

そうだ、ここ…半個室。

「何だよ、もう。泣き虫だな。」

「梓の負担になってるって、気づかなくて。いつの間にか…梓には私が居ないとダメだって思ってたんだよね。おこがましいよね。」

「間違いなく、今…梓が元気なのは湊のお陰だよ。」

ハンカチを探して、鞄を開ける。

…ない。

「吉良くん、ごめんなさい。」

「何?」

「…ハンカチを…」

「…バーカ。」

結局、返したハンカチを、またお借りする。

自分のバカさ加減に笑えてきた。

肩が揺れる。

「笑ってんじゃねーよ!」

「お店で泣いてる女性に大声は…どうかと思いますよ?」

「…お前、実は悩んでねーだろ。」

「梓に連絡できなくて…あ、梓からはメッセージ来てたけど…。」

「京都に…ついていくって。浜川さんの転勤。」

「嘘!やるじゃん!」

思わず、軽い返答になった。

でも、梓ぁ!すごい。進歩だよ。

「大丈夫だ。梓は。な?」

「うん。…でも…」

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