夜をこえて朝を想う
そろそろ帰るか。そう思っていた時に…着信。

…麗佳だ。

プライベートの方から。

あの2日後の事だった。

「俊之さん…私…」

様子がおかしい。

夜になって、雨が降りだしていた。

「どこだ?今。」

「俊之さんの…会社の前…」

そう言うと、切れた。直ぐに会社を飛び出すと

目の前には、焦点すら合わない、彼女の姿。

傘も差していない。

「麗佳!」

名前を呼んでも尚、動かなかった。

「どうしたんだよ、ほら、立って。」

ようやく、俺のを見上げた彼女は

白い顔に…唇まで真っ青だ。

「分かった。1つだけ答えて?1人になりたい?なりたくない?」

「なりたくない。…1人に。…1人になりたくない。」

「…分かった。」

それだけ言うと、傘を彼女に着せながら、彼女の背を押すように歩き始めた。

「ちょっといい?」

そう言ってコンビニに寄ると、下着だけ購入した。きっと、びしょ濡れだろう。

それから…

会社のすぐ近くにある…ホテルへと入った。

フロントにて、事情を説明する。会社で使用するのに、顔見知りのスタッフがいて、何とかなった。

バスタブにお湯を張ると、麗佳に言った。

「あのねぇ、2月の雨に打たれるとか…馬鹿ですか?」

「ごめんなさい。」

「聞き飽きた、麗佳の“ごめんなさい”」

パタパタと、それを拭う素振りも見せず…泣きはじめた。

「しっかり、暖まって。それから。はい、これ。」

そう言って、先程のコンビニで買った物を渡した。

何で俺が下着まで用意しなきゃならんのだと思ったけど。

「バスローブで出て来て。服、びしょ濡れだろ?」

ようやく気づいたのか、恥ずかしそうに俯いた。

「早く、行く!」

そう言って背中を押すと、やっと動いた。

ランドリーサービスを頼み、麗佳の服を渡した。

それと、軽い食事と。

俺の所に来るくらいだ。

何かあったのだろう。あの男と。

あったとしても…うーん…何が?

誤解か、何かだろう。

ヘタクソか。

何やってんだ、あの器用な男が。

“過去の女”に、関することだろうか…。

あー…どうしたもんかね。

ここに泊まった事も…

まずいな。

だけど、放っておくことも

まぁ、バレなきゃいいか。

どのみち、何もない。

俺たちには。

俺が、彼のフォローをさせられてるだけだ。

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