夜をこえて朝を想う

「何も考えずに寝ろって、言っただろ？」

風呂から上がっても、彼女は起きていた。

いや、眠れなかったのだろう。

俺の姿に、彼女が吹き出す。

「えー、笑う？」

「だって、だって、ごめんなさい。似合い過ぎてて…。」

「ああ、そう？小道具に後はでっかいワイングラスとペルシャ猫でも…。」

「やだ、もう、止めて…。」

そこから、彼女は思春期のように笑った。

「笑え、笑え。」

そう言って、彼女のベッドに腰かけると

布団に入るように促す。

「ほら、冷える。居てやるから寝ろ。寝たらスッキリするもんだ。」

そうして、暫く側にいると彼女は眠ってしまっていた。

疲れたんだろう。

子供みたいだな。

暫く、寝顔を見ていたが、俺も眠ることにした。

翌朝。

ランドリーサービスを受け取ると、着替えた。

彼女は…

「お、起きたか？」

「はい、これ。」

そう言って、ランドリーサービスから戻って来た、服を渡す。

「あ、ありがとう。何から何まで…本当に。」

本当だよ、全く。

「酷い顔だわ。」

着替えて、化粧を終えた彼女がそう言った。

「酷い時でも、美人は美人だよ。」

そこは、間違いなかった。

「朝食、ここで取る？外行く？」

恐らく…

「一人にしたら、何も食べないつもりだろ？朝くらいは食べよう、な？」

「じゃあ、外で。」

「OK、行こうか。」

そのまま二人で外に出た。

太陽が眩しかった。

よく、芸能人がこんなシーンを写真に撮られている。

“話をしただけ”とか“何もなかった”とか“一線は越えてません”とか…

馬鹿じゃないのか、誰が信じるんだ。

そう…思っていた。

男女がホテルから出てくるということは…しかも…朝に。

そういうことだ。

そうだな、誰も…信じない。

“何もなかった”だ、なんて。

なぜ、こんなタイミングで

まさにそこにいるのか。

しまった。そう思ったが、見られた以上は…

軽く笑顔を作り

ほんの少し、手を上げた。

彼も軽く頭を下げた。

このまま他の場所へ…とも思ったが

近くのカフェに入り、モーニングを頼む。

「ごめんなさい。」

何度目か分からない謝罪に

「“振られたら慰めるから…そん時は連絡してくれていいから”って言ったしね。」

そう言った。