夜をこえて朝を想う
その度に落ち込んだ。

その男はともかく…そんな男にもお相手はいたわけで…何も知らない彼女に

辛い思いをさせたかもしれない。

そう思うと、いたたまれなかった。

私が、もっと…相手をしっかり見ていれば。

そう、思った。

次は…

まあ、次があるなら。

しっかり、見ようと思う。相手を。

そうすればきっと…誰も傷つけずに済む。

『いくらでも解いてやる、誤解なら』

吉良くんは、そう言ってくれた。力強く。

いくらでも解いてくれる。

彼女の…為に。

だけど…

吉良くんが“取引先”そう言った、会社の近くでも

吉良くんの会社の近くでも

会うことはなかった。

偶然ってあんまりないものだな。

だけど、私が今の会社に、もしくは、日本にいるうちに…

やっておきたかった。

それは、もはや自分の為。

自分の第一歩の為だったのかもしれない。

そして…

探した場所ではなく

思ってもみない場所で実現した。

休日。

久しぶりに、買い物に出掛けた。

思えば、冬のボーナスも使っていない。

ちょっと散財したい気分でもあった。

春のコートか、ワンピース、スカートもいいな。

とりあえず、男ウケする服。

真面目な男をターゲットにした、清楚系。

ヒールの高すぎないパンプス。

それから、アガるコスメ。

いっそ、イタリア人にウケる服にしようか。

などと迷走してた時

…このスカート可愛い。

そう思って手に取ろうと伸ばした手がぶつかった。

「あ、ごめんなさい。」

「こちらこそ、あの、どうぞ。」

顔を上げると…そこには

物凄い美人…

認識すると同時に

「あっー!!!」

私の声に目を見開いた彼女は、サッと目を伏せた。

あ、しまった。

反応が…品位の欠片もない。

軽く一礼して、去ろうとする彼女を慌てて止めた。

「あの!待って。会いたかった。」

彼女が立ち止まって眉を寄せる。

「人違いでは…?」

「いいえ、いいえ。あの…」

じっと、綺麗な目に射ぬかれ、怯んだけれど

「私と、付き合って貰えませんか。」

そう、言えた。

「え…。」

「あ、告白しちゃった!えと…お茶に。」

そう、付け加えると

彼女は…少し戸惑ったが

「ええ。」

そう言ってくれた。

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