夜をこえて朝を想う
第10話

side S

どちらも、担当というのは良いね。

意図せず状況が、分かる。

次の週は商談ルームへ…吉良君が入ってきた。

「さて、先に仕事の話する?…それとも…」

「仕事以外でする話…ありませんよ、僕には。」

…こっちの方が、重症、だな。

「案外、張り合いがないんだね。」

この前と同じ言葉を送った。

「…ご存知ですよね、俺は…」

知り合いと関係のあった女性は無理だって事だろ?

“僕”じゃなくて“俺”って言っちゃってるけどね。

「うん、そうだね。何があったか、聞かないの?」

「聞いて…欲しいんですか?」

「…ああ、聞いて欲しいね。」

聞いてくれたら、説明するつもりだった。

ああなったのは、誰のせいかも。

「聞きたく、ないです。」

間髪いれずに、そう言った。

「後悔するよ。」

「後悔は…もっと前にしてるんで。」

なるほど、自分のせいだということは、分かっているんだ。

「はは、そっか。じゃ、仕事ね。」

「はい。」

そこから、彼は淡々と仕事を終え

仕事以外の話をすることなく、帰って行った。

明らかに、生気のない顔に…絶望の色。

あんな彼を見るのは初めてだった。

俺の話を、聞こうとしないところも。

麗佳への気持ちも変わらないだろう。

だからこそ、葛藤してるのか。

過去も…解決したのだろうか…

あれ…彼も何をしていたのだろう、あそこで…

あれは…あの時間帯だと、帰っていない。

つまり、誰かと一晩過ごしたのか?

…じゃあ

人の事は言えない。

“知り合いと関係があった女は無理”

そう言う彼ならば、自分も“好きな女以外は無理”

だろう。だから、何かあった訳ではない。

と、すると…

引っかかるのは、“俺と関係があった”事だろう。

実際は、なかった。

むしろ、巻き込まれた感、満載だ。

お互い様。

それが分かれば…

うん、大丈夫だ。

麗佳が何とかするか。

< 56 / 146 >

この作品をシェア

pagetop