夜をこえて朝を想う
次の日、やってきたのは

吉良君(イケメン)の方。

あー…拗れてるねぇ。まだ。

前回同様、淡々と仕事をこなす。

取り付く島もないほどに。

仕事が終わると、そのまま帰ろうとする彼を止めた。

「あー、今日は俺も終わりなんだ。待ってて。」

何かを含ませるように、そう言った。

そう言って、フロアに声を掛け、彼と共に商談ルームを経て、下に下りる。

「君、今日は?」

「これから、友人とそこで会うだけです。

ここ、友人の会社から近いんで。清水部長は?」

敢えて、聞いて来たのだろう。

挑戦的に。

「あー…実は…今日もそこのホテル取ってるんだよね。…この前よりランク上げた部屋。」

そう言うと、挑戦的な目が、より一層強くなる。

取引先の部長()に、この目はないだろう。

「なんなら、君が代わりに行く?」

俺と、じゃなくて、俺の。

その瞬間、彼の目に何かが光り、より鋭く俺を見据えた。

…殴られるのかと思うほどに。

エレベーターホールの大きな観葉植物の陰にぐいぐいと、追いやられる。

俺の胸に手を乗せたまま。

…男にこうされるのは…

ガタイは俺の方がいい。

しかし…会社なので

もう少し奥へ入った。

「何?」

「恥を承知でお願いします。」

そう言った。

手は俺の胸に置かれたまま。

「引いて貰えませんか?」

ああ、やっと言ったか。

「君、無理なんじゃなかった?」

「構いません。」

それでも…って事か。

「そんな事、どうでもいい。」

そう言うと、また少し俺に近づく。

「譲って下さい。絶対に、幸せにします。」

ふっ、プロポーズみたいだな。

吹き出しそうになるのを何とか堪えた。

譲るも何も。最初から、君の物だ。

彼女の…気持ちは。

「…分かったよ。」

そう言うと、ようやく俺の胸から手を離し

安堵のため息をついた。

「条件がある。」

「…何でも…」

「君も、幸せになることだ。」

そう言うと、ニッといつもの生意気な顔で笑った。

「感謝します、清水部長。」

まぁ、気持ちの面でも…完敗だ。

「…清水部長にも誰か…」

「結構だ。」

そう言って笑った。君達は本当に…。

「まあ、男に壁ドンってのも悪くないな。」

「そんな、若い言葉、ご存知なんですね。」

…本当…腹立つな。

同時にビルを出ると

「吉良くん!」

そう声が聞こえた。

…女かよ…

こいつ、こういう所だよな。

全く。

彼女は、俺に気づくと恥ずかしそうに一礼した。

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