夜をこえて朝を想う
俺が見えなかったのか。彼女は少し目を伏せた。

「あ…湊…」

「ありがとう。これ…。」

そう言って、彼に何かを手渡した。

「うん。あ、俺…今から行かないといけないんだ。…その」

そこまで言うと、何かを悟ったのか

「うん、いってらっしゃい!」

彼女は笑顔でそう言った。

こっちも美人か。

流石だな。そら、誤解されるだろう。

…ああ。麗佳が言ってた…違う女性ってこの人か?

彼の事だ。そうでもしなきゃならない何かがあったのだろうが。

ただ、美人ってのは…

相手をより一層…誤解させる。

それに、気づかず…

「ああ、じゃあな!湊、また!」

それから、俺の方に向き直ると

「清水部長!失礼します!」

そう言って…

走って行った。

麗佳の元へ。

格好いいね~

「やだ、あの人、足も速い!手も早いんだろうけど…格好いいだけじゃないのね。」

そう言った彼女に吹き出した。

彼女は少し驚いたように、俺を見ると、にっこりと笑った。

「本当…そうだね…。えーっと…湊さん?君は…いいの?」

「ええ、ハンカチを返すだけでしたので。清水部長。」

俺が、吉良君が呼んだように、彼女をそう呼ぶと

彼女も、吉良君が呼んだように、俺をそう呼んだ。

「えっと…彼とは?」

「大学の同級生です。清水部長は?取引先の部長さん?」

大学の…じゃあ吉良君と同い年か。

「そうだね、ここ。」

そう言って、目の前のビルを指差した。

「この後の、ご予定は?湊さん。」

「…ありません。」

「…食事、付き合ってくれると…嬉しい。」

「わ!いいんですか?嬉しい。ちょうど、そんな気分で。」

初対面ではあるが、お互いに吉良君という共通点がある為か、安心感はあった。

テンポよく返ってくる会話に、頭の回転もいいのだろう。

店に着くと、横並びの席に座った。

顔を見て話すとなると、結構近い。

…思ったより…ずっと、綺麗だった。

少し、魅入ってしまうほど。

ラッキーだな。

「あら、さっきは暗かったから…もしかしてって思ってたんですけど…ハンサムですね!ラッキーだわ、私。」

真っ直ぐにそう言う。

麗佳が、“取っ付きにくい美人”なら、とりわけこの子は“気さくな美人”。

タイトなワンピース。

細身ながら、女らしいラインが分かる。

ちょっと、この距離なら目のやり場に困るくらいだ。

少し、見つめた後に、にっこりと笑う。

うん…ラッキーだ。

「悪かったね、付き合って貰って。」

「私も、誰かと居たかったので。それが…美味しいお料理に美味しいお酒…そしてハンサムな部チョーさん。もうね、最高。」

そう言ってまた、にっこり笑った。

…本当、綺麗だな。
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