夜をこえて朝を想う
第11話

side M

ワンピースも、メイクも正解だった。

まぁ、普段よりはマシだ。

大きな会社の部長ということは、お仕事もお出来になるのか。

それなりの年齢なのかな。

…分かんないな。

まぁ、居ないわけ…ないよね。

…指輪はしてないけど。しない人も多い。

奥さんが居ないとしても、恋人はいる。

でも、一時を過ごすには十分。十分すぎる人だった。

走って行く吉良くん。

綺麗な綺麗な麗佳さん。

良かった。

なのに、胸に居座る虚しさを払拭するには、有り難かった。

切れ長の目が、優しく私を見る。次々と冗談を飛ばしながら。

聞けば良かった。

最初から。

そしたら、苦しむ事も、間違う事も、なかったのに。

「ハンサム…って…」

「今時でしょ?でも、部チョーさんはそんな感じ。ハンサム顔!」

「褒めて…んの?」

「はぁい、もちろん。」

楽しく飲めたら良かった。今日だけだし。

「俺も。」

そう言った彼に、食事の手を止めて、見つめた。

「俺もラッキーだった。綺麗な人で。」

「お上手ですわ、部チョー。」

分かってる。本気になんて、しませんよ。

「悪かったね、付き合って貰って。」

「私も、誰かと居たかったので。それが…美味しいお料理に美味しいお酒…そしてハンサムな部チョー。もうね、最高。」

にっこりと笑う。

じっと、見てくる彼に耐えられなくなって、つい茶化してしまう。

だけど、本当だった。

「今日はもしかしたら、夢なのかしらと思う程です。」

そう言って、彼の空になりそうなグラスを見て

「次、何飲みます?もう少し、飲めるでしょ?」

そう言った。

楽しかった。純粋に。

今日くらいは、いいのではないか。

別に、ただ飲んでるだけだし。

つい、考えてしまう。

相手をよく見ないと、失敗する。

でも、飲んでるだけ。深く考えない。

楽しすぎて、時間はあっという間だった。

時計を見ると、もう終電近い。

「そろそろ…時間が…」

そう言った私に

「明日、休みだよね?」

そう聞いた。

「…ええ。」

タクシーで帰れとでも…

「今日、そこのホテルに泊まるんだ。」

そう言って視線を走らせた先には…私には縁がないような…ホテル。

「えっと、こっちの人ではないんですか?」

出張でこっちに?

「いや、たまたま部屋をね。もちろん、シングルじゃない。」

たまたま?

たまたまで取るような…ホテルでは…なかった。

ましてやシングルでは、ない。となれば、尚更。

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