夜をこえて朝を想う
「…憧れていたのかもしれない。彼を通して…」

真っ直ぐに相手を見る、そんな恋に。

「うん。」

「私は…自分で選んだんです。彼は、私の友達の彼氏だったから。この気持ちは、もう手放したんです。」

彼は、驚いたように目を見開いて、すぐにまた微笑んだ。

「分かるよ。」

彼の言葉に、私も笑った。

「だから、やっと前に進める。」

「俺もだ。」

「勇気、くれます?」

「ああ。」

それから、どちらともなく唇を合わせ、求めあった。

彼も何かあったのかもしれない。

本来なら、一緒にここで過ごすはずだった人とだろうか。

「綺麗だよ、湊。」

先に脱がされ、隠すようにした私の手を押さえて言った。

「これで、見えない。」

そう言って、彼の腕の中に引き寄せられる。

そのまま、ジャグジーの泡で見えないお湯の中へ入った。一緒に。

「細いな。」

彼がボソッと言った。

「痩せたんですよね…。本当はもう少し、あったんですよ。」

胸を押さえてそう言った。

「また、太ればいい。」

胸元に唇を這わせ、そう言った。

「それに、十分ある。」

彼のたくましい腕と比べれば尚更貧相だ。

なのに、彼は褒めてくれる。

ずっと、ずっと。

酔いが回る。

ジャグジーのお風呂に浸かりながら、恥ずかしさでなかなか出ることが出来ない私は…

のぼせそう…

でも、窓からの景色も見ていたい。

このお風呂から出たら、景色から目を移したら…

どうなるかは、分かっていたから。

「のぼせるよ。」

「…だって…」

私を、お風呂の段差に座らせると

バスタオルでくるんだ。

濡れた髪を後ろに流し、男の色気を纏った目で

真っ直ぐに見る。

自分でくるんだ癖に、それを邪魔そうに取り払うと

「外、見ながらする?」

いたずらっぽく笑う彼に

出てこない。いつもの軽口も。何も。

…ダメだ。

これは…

考えない…というか…考えられない。

いつしか、そんな事すらも

羞恥心も、全部無くし、

彼の事しか考えられなくなっていった。

まともな彼氏もいたことがないような私を

彼は激しくも優しく抱いてくれた。

何度も。

何度も。

いい夢だった。とても。

こんなホテルも、彼も。

彼の腕の中も。

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