夜をこえて朝を想う
週明け、忍者のように忍び足でキョロキョロしながら歩いた。

あと1ヶ月程とはいえ、会社が近い。

でも、今迄も会った事ないしなぁ。

背の高い彼は、目立つだろうし、居たとしても、向こうが私に気づくまでには逃げれる。

まぁ、こっちが気にするほど、向こうは気にしてないかもね。

だけど、念の為…向こうの会社辺りは避けた。

あの…ホテルも。

元々、仕事は外出が多かったが

辞めると決まってからは、引き継ぎ作業も多く、オフィス勤務が増えた。

月曜、火曜、水曜…

会わないもんだな。

そんな、油断していた木曜日。

仕事が立て込んで、少し遅めの昼休みだった。

オフィス街の昼休みのピークも過ぎた頃。

敢えて、彼の会社から遠目のカフェで軽食を取り

帰りにコンビニへ寄った。

彼だ!

そう思った時には遅かった。

しっかりと目が合った。

だけど…私の予想を裏切って、彼は目を逸らした。

そして、何もなかったかのようにコンビニを出て行った。

…なんだ。

そっか…

バカみたい。

彼は…

彼に取っては、あれくらい…

自意識過剰。

自分で避けておいて、避けられると傷つく。勝手だな。

買い物を済ませ、コンビニから出ると

…心臓が…止まるかと

思った。

そこには、あの笑顔。

「やぁ、また会えたね。湊。」

「ええ…清水部長。」

私もすぐに笑顔を作って、そう言った。

やられた。

そう思った瞬間だった。

「今日、仕事何時に終わる?」

「えっと…今日は…」

「このまま、会社へついていこうか?」

笑顔で、でも、脅すようにそう言われ

「18時半には。」

そう答えた。

…会社を知られる訳にはいかない。

「ここで、待ち合わせる?それとも、会社まで迎えに行こうか?」

私が、そっちの会社へ行く選択肢がないことで…

見られたらまずいのだと悟る。

「ここで。」

「OK、後でね。」

そう言って、彼は意味ありげに私を見つめると

去っていった。

心臓がバクバクしてる。

あの夜から1週間経ってない。

見つかりたくなかった…

なのに…

嬉しいと思ってしまう。

そんな気持ちを打ち消すように、スマホの電源を落とすと、会社のデスクの引き出しにしまった。

必要ない。

必要ないから。

そのまま逃げても良かった。

なのに…

あの場所へ

私は向かったのだった。

約束の時間より、少し早めに。

今なら軽傷で引き返せたというのに。

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