夜をこえて朝を想う
「…憧れていたのかもしれない。彼を通して…」

彼女の瞳がせつなげに揺れる。

トーンを落としたライトの下でも、綺麗だった。

「うん。」

「私は…自分で選んだんです。彼は、私の友達の彼氏だったから。私は…その子と友達でいたいから。だから…この気持ちは、手放したんです。」

ああ、過去の…

そうか、友達の彼氏は…キツいな。

今でも、友達でいるほどの関係なら尚更。

「分かるよ。」

俺がそう言うと、彼女は笑った。

「だから、やっと前に進める。」

「俺もだ。」

「勇気、くれます?」

「ああ。」

それから、どちらともなく唇を合わせ、求めあった。

一人のカップルの陰に…

色んな思いが交差する。

ちょうど良かったんだな、俺が。

お互い。

だけど…それも必然で…きっと、それだけじゃないはずだ。

「綺麗だよ、湊。」

綺麗だった、本当に。

恥ずかしがる彼女を抱き締める。

「これで、見えない。」

そのまま、ジャグジーの泡で見えないお湯の中へ彼女を抱き抱えるように入った。一緒に。

「細いな。」

強く抱くと、折れそうだ。

「痩せたんですよね…。本当はもう少し、あったんですよ。」

…心労でと、いうことか。

「また、太ればいい。」

胸元に唇を這わせ、そう言った。

忘れたらいい。今夜限りで。

それくらいの、慰めはする。

「それに、十分ある。」

出るべきところは、しっかりと女性らしい。

ずっと、見ていたいくらい。

まぁ、見せてくれないのだけど。

綺麗だ。

だけど…

いつまでこうしてるのか。

ジャグジーのお風呂に浸かりながら、恥ずかしさからだろうか。なかなか出ようとしない…

酒も結構飲んだ。

弱くはないのか。

だけど、俺とここにいるのは、酒の力もあるだろう。

「のぼせるよ。」

「…だって…」

抱き上げると、そこへ座らせた。

バスタオルで拭くように包んだ。

俺から目を逸らし、外を見ようとする彼女に言った。

「外、見ながらする?」

彼女からの返答は、なかった。

冗談に返す余裕も…ない…か。

でも、もう…

こっちにも余裕はなかった。

感情と熱情のまま…

そして、彼女も同じ気持ちであると

久しぶりに身も心も満たされた夜だった。

人肌は何よりも癒してくれた。

麗佳の元へ走って行った吉良君にすら、感謝するほどに。

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