夜をこえて朝を想う
湊との付き合いは、いい意味で楽だった。

物分かりがいいというか。サッパリしてるというか…

面倒臭くない。

彼女の気配りの出来る性格と、頭の良さ。

それと、自力した女性であること。

故に…依存しないのだろう。相手に。

とにかく、付き合い始めた時期が悪かった。

ただでさえ、忙しい。

前以ての約束が全く出来なかった。

いつも、こちらの都合で空いた日にそのまま電話を入れた。

それなのに、文句も言わず来てくれた。

いつも…。

疲れた時に、癒しだった。

にっこり笑う彼女に、癒されていた。

ただ…もう少し、甘えや我が儘を出してくれても…そうは思っていた。

彼女から会いたいとも、会えない事に文句も

何処かへ連れて行けとも

何か買ってくれとか、そんな、ねだるような事も。

女性と交際する上で大なり小なりある、そんなのが

何も…

何も無かった。

「はぁ、やっと会えた。」

久しぶりだった。

部屋に入るなり、湊を抱き寄せて言った。

「悪い、湊…最近忙しくて。」

「ああ、いいよ。新入社員入ってきたし忙しいよね。」

「落ち着いたら、どっか行こうか。温泉でも。」

「いいよ、私も今忙しいし。」

そう言って、笑う。

お互い忙しい。

だけど、そう言った湊に多少の虚しさが胸を掠める。

そうだ、説明し難い少しの違和感。

以前から、ずっと…

湊の笑顔に違和感を感じていた。

だけど…

深く掘り下げずにいた。

疑いたくはなかったから。

「オヤジくさい?湊の行きたいとこで、いいけど。」

「はは!気にしてるの?じゃあ、イタリア!」

「そう来たか。んー…まとまった休み取るかぁ。」

彼女が本気じゃないのが、分かる。

「もうちょっと、我が儘言ってくれていいのに。」

そう言って…髪を撫でながらキスをする。

「…6回目。」

不意に溢れた言葉。

「何?数えてんの?」

「あー…ほら、一応。」

会った回数…

ああ、寝た、回数か?

「ああ、そっちの?女性は…気にするか。ちゃんとするよ。大丈夫。」

手帳につけて、管理してる子もいたな。

「うん、そうだね。」

「デキても、いいけどね。」

冗談で言った。

だけど…すでにそのくらいの気持ちはあった。

確かに、仕事終わりに食事をして

こうやって身体を重ねるだけ、

付き合い初めから、まともに時間も取れていなかった。

忙しいとはいえ、申し訳ない気持ちはあった。

何も言わない彼女に対しても。

彼女が、この事を虚しいと思っているかも知れないと

ふと、思った。

…どこかで、金曜日か土日…時間作るか。

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