夜をこえて朝を想う
家が近い。

その事に、誘いやすくはなった。

多少仕事で遅くなっても。

泊まって、朝帰る湊にも。

すぐ帰れる距離故に納得した。

「…湊、何か疲れてるのか?」

少し、覇気がない。目に。

「え?そうかな。」

「…違うのか?」

顔を近づけて、伺うように見る。

「忙しいからなぁ。最近。」

そう言った湊は、いつもより笑顔がぎこちない。

「そうか、じゃあ…元気出るように、旨いもの。」

そう言って、焼けた肉を湊の皿に入れていく。

「やだ、そんなに食べれない。」

「太れ、ちょっと。もう、痩せるような事はないんだろ?」

…相変わらず細い。

むしろ、また…少し…

「…そうだね。デザートまで食べようかな。」

そう言って笑った。

甘い物が好きなのか、よく頼んでいた。

食べながら

「そういえば、吉良くんとは仲いいの?」

そう聞く。

唯一の共通の知り合いだ。

「そうだな、まあ…。」

「会社、来てるんだよね。」

「ああ、今日は…彼じゃなかったけどな。」

「…麗佳さん?」

「あ、知ってるのか。」

そっちも、知ってるのか。

「うん、前に会った事が。すっっごい美人だよね。」

「はは、そうだな。確かに。」

「吉良くんも、麗佳さんも、すっっごいもんね。見た目。部長の会社でもモテてたりしないの?」

…あー、モテてるな。かなり…。

「清水部長…も?」

そう聞いて来たことに驚いた。

女ってのは、こんな時、妙に勘がいい。

「え、ああ。昔ちょっと、な。」

…湊の顔が、分かりやすく曇った。

「綺麗だなって、思ってただけだよ。」

そう言った俺にすぐに笑顔を作ると

「面食いだなぁ、吉良くんも清水部長も。」

そう言った。

一瞬の後、笑顔を作るのは湊の癖なのか

それとも、何かを…胸の内を隠す為か

相変わらずだった。

「それは、湊の事も含めて?」

もちろん、湊も綺麗なのだから。

そう思って言った。

いつもなら、すぐ返ってくる返事はなく

少し…目

「え?湊…」

「煙い。ちょっと、それ焦げてるんじゃない?」

「ああ、悪い。」

慌てて、トングで網の上の肉を裏返す

だけど…煙など…

「本気の時だけ面食いか。」

小さな声。

「え?」

何時もの様にすらも笑わない。

何だ?

「今度、金曜日…早く帰れるようにする。泊まって…そのままどこか出掛けようか。土曜日。準備持ってきて。」

いつも、翌日に仕事のある平日しか会えてなかった。

それに…まだまだ知らない事も多い。

知って行きたい。

俺の誘いに、湊は

また、一瞬の後、にっこり笑った。

笑うだけで…

YESとも…言わなかった。

NOとも。

ほんの少し距離を作るのは、わざとか…

無意識なのか。

俺が、寂しい思いをさせているのなら

そう思って、時間を作った。

寂しいなんて、言わないだろうけど。

湊は。

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