夜をこえて朝を想う
部下数人を連れて、昼食に出た。

「部長の奥さん、めちゃめちゃ綺麗ですね。」

「それ…ああ、まぁ、いいや。そうだな。っていつ見たんだ?」

「あの、ホテルから出てくるの、見ちゃったんですよね~。そのまま朝食取ったでしょ?そのカフェに居たんですよ、私。」

「ああ、君このへんだっけ?家。」

「へぇ、そんな美人なんだ。」

一人が食いついた。

「いや、それ違うわ。」

…カフェといえば、麗佳の方だ。

そうだと、言っても良かったが、後々面倒になってもと否定した。

「うわ、見てはいけない方でした?」

「馬鹿、ただの接待だよ。」

ある意味。

「そんな風には見えなかった~。」

「はいはい、なんとでも。」

「悪いな~、結婚前に遊んだんだー。」

「なんとでも言え。」

それからすぐに、会話が逸れたので

そのままに、ただ食事をして

支払いを済まして、先に店を出た。

面倒くさい。これ以上、喋ってるのが。

「やっ!」

そこに、湊。ふざけて、手を上げる。

「ああ、どうした?」

「私も、ここで食べてたの。」

「おお、そうか。」

時計を確認する。

「コーヒーでも行くか?」

「うん!」

湊はにっこり笑った。

「見られたら、困るね。」

ボソッと言う彼女に…悟る。

「聞こえた?」

「…うん。」

「参ったな、声デカイんだよ。全く。」

「…だね。」

「…接待、だけど。」

「うん。」

湊はまた、にっこり笑った。

…あれ

「どうしたんだ?それ。」

湊の膝、それに少し足を庇っている。

「転けた。」

「え…大丈夫なのか?」

「もー、オフィス街で派手に転けたの。そっとしといて。」

恥ずかしいのか、拗ねるようにそう言った。

「なんだよ、綺麗な足なのに。」

「はは、セクハラです、部長!」

「…お前ねー。…心配、してる。」

「はい。うん、ありがとう。」

「嫁入り前ですからね。」

そう言った俺に

「キズモノです。」

珍しく、トゲのある声

「…湊?」

「生クリーム乗ったやつ!センスでお願い致します!」

言われるまま、レジに向かった。

部長とか言いながら、顎で使う。

ふっ

何だよ。

…さっきの話…

気にしてるのか。

それもまた、可愛いな。

呑気にそう思っていた。

彼女の気も…知らないで

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