夜をこえて朝を想う
まぁ、いい気はしないか。

俺も、あの眼鏡といるのを見て、いい気はしなかった。

「土曜日…どこか行きたいとこ、決まったか?」

「んー…日向。」

「なんだ、それ。山とか?」

「アウトドア、似合わないねー。」

「悪かったな。行きたいなら、そうしようか?」

「…はぁ、おいし。」

俺の問いに答えずに、そう言った。

いつも、そうだ。

YESともNOとも…言わない。

湊は…

俺の選んだドリンクは気に入ったみたいだが…

分からない。

何時からだろう。

湊が…

分からなくなってきた。

何を思い、何を…考えているのか。

一向に近づかせようとしない、そんな横顔。

本音が見えない…

そんな、会話。

「湊…?」

「何?」

少し、責めるような、悲しい目が

何を思っているのか。

再びにっこり笑う彼女に

何を言えばいいのかも

分からなかった。

代わりに、そっと手に触れる。

俺よりも体温の低い、細く頼りげのない彼女の手を…そっと掴む。

そして、その手を彼女が握り返してくることは、なかった。

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