いつかの話
身長は俺の肩くらい。


お気に入りの靴がかかとがある靴だったから、ハイヒール履いて並ぶとちょうどいいねっていつも笑っていた。


全然ちょうどよくない。

あいつは高いヒールが好きだから、あいつが好きな靴を履くと目線が同じになる。


『知ってるか、男女のちょうどいい身長差は十五センチらしい』

『それ恋人のでしょ? 私と君は恋人じゃないんだから別に何センチ差でもいいじゃん』

『そうだけどさあ』


そのわりに、あいつがいつでも前を向いているせいで微妙に目が合わなくて、いつも横顔ばかり見ていた。


だから、店に入ったらできるだけテーブル席に陣取ってた。そうしたら目が合うだろ。


好きな飲み物は甘ったるい紅茶。


俺の家に来るたび、俺が特別に丁寧に美味しく淹れてやった紅茶に、軽いノリで礼を言いながら砂糖をいつもスプーンで二杯は入れていた。


出先でも角砂糖をものすごい勢いで落とす。

見ているこちらは砂糖を入れたくなくなる勢い。


『おまえが甘いの好きなのは知ってるけど、そんな甘いの飲んだ後にからいの食べたらさ、実際はそんなことなくてもめちゃくちゃからく感じるんじゃね? 大丈夫か』

『んー? 別に大丈夫だよ。ちょっとからいけど美味しいよ』

『分かったおまえ舌がバカなんだろ』

『えっじゃあ両方一口ずつあげるから食べてみなよ。そんなにからくならないよ』

『ん。……ちょっと待てからいじゃん何これめっちゃくちゃからいんだけど!』


俺が慌てて水を飲むのを見て爆笑していたから、多分わざとだったに違いない。あとやっぱり味覚音痴に違いない。


あれじゃ口の中がいつまでも甘ったるくてときどき痛いほどからいと思うんだけど、本人は嬉しそうだからまあいいことにしていた。
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