いつかの話
字はひどい丸文字で。


ただ普通に書くだけでポップ体にレタリングしたみたいな字のくせに、レポートを書くのを手伝ったときにはなんかめちゃくちゃ普通の、むしろ綺麗寄りの字を書いていた。


書き分けができるらしい。

字が汚い俺が言うことじゃないけど、いつも綺麗に書いたらいいのに。


足は右足だけ人差し指が長くて、左足は親指が長い。

サンダルを買うのに付き合わされたとき、そのせいで選びにくいんだって何時間も荷物持ちをさせられた。


アイシャドウはキラキラしてるのが好きで、ラメ入りのをいつもつけていた。


『今日のどう? どう?』

『あーうん。かわいいかわいい』


アイシャドウを新しくすると、変顔混じりの長いウインクを寄越す。


両目を閉じるのは嫌でも、片目なら閉じてもいいらしい。わけが分からない。


目を閉じては感想を言えとねだられて、いつも適当に流していたけど、前、秋頃につけていた夕焼けみたいなグラデーションがよく似合っていたと思う。


……今は青がお気に入りらしい。


あいつは嬉しそうに「よく似合うって褒められたんだー」って言ってたけど、そんなの、主語を抜かされたって誰から言われたのか分かる。


連絡の返事がいつも早かった。

どんなにバカみたいな話題でも、すぐにおどけた返信が来た。


それも、あるときからいつもより少しだけゆっくりになった。


今なら分かる。思えばあのときはきっと、今日の前触れだったのだ。
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