時代を超えた件ー乙女ゲームは安全圏内からしたかったー
そんな二人のやり取りを見上げていた鈴は、徐徐に顔をゆがめ始めた。その顔は、顔面蒼白という言葉がピッタリなほど顔色が悪く、先ほどとは違う恐怖に染まっていた。
彼らのことを、鈴は知っていた。その整った顔は、確かにあのゲームのパッケージに乗っていた。沖田総司と斎藤一。
震える指先が、頬をつねり痛みで顔をゆがめた。これは、現実だと痛みが鈴に教える。
「ねぇ君、大丈夫なの??震えてる」
沖田は鈴の異変に気づき顔を覗き込んだ。右往左往と忙しなく動く彼女の視線が彼へと向けられる。しかし開いた口からは言葉がでることはなかった。何を言えば、彼らが彼女の現在の状況を理解できるのか。
何も言わず俯いた鈴に、沖田と斎藤は顔を見合わせた。
「総司、とりあえずその娘を屯所に連れて行くぞ。人間をここに放置するわけにもいかない」
「そうだね」
君歩ける??と顔を覗き込んでくる沖田に鈴は小さく頷いた。二人に続いて歩き出しながら、鈴は今度どうすれば自分が平和に生きれるかを考えていた。
闇鬼のいるこの世界で、一般ピーポーの自分が生存できる確率は考えずともすぐわかる。
まず、これがゲームの世界だとすれば主人公である女の子がいるはず。彼女はきっとゲームのシナリオにのっとりストーリーを進めていくはずだ。
ハッピーエンド後の世界であれば、仮に前の世界に帰れなくとも多少は生きやすくなるのでは??と鈴は希望の光を見つけた。
ならば早々にハッピーエンドヘもっていきたい。禁忌のネタバレを使って彼らに裏ボスを伝えてしまえば終わるのではないかと簡単に考えたが未プレイの鈴がそんな人物知るはずもなく。
「こんなことなら友達に聞いときゃよかったよッッ!!!!」
ワッショイ絶望タイム。
急に大声で叫んだ鈴に、二人はギョッと目を丸めた。絶叫は町の人が皆三人に視線を向けるほど大きなもので、あぁぁぁぁと未だに頭を抱え雄たけびを上げる鈴を二人で必死に止めた。