時代を超えた件ー乙女ゲームは安全圏内からしたかったー
屯所に向かう二人についていく鈴。彼女の腕は以前総司の腹に回ったままだった。隣を歩く一もチラチラと時折視線を向けては気まずそうに視線をそらしていた。
しばらく無言を通してきた総司だったが、次第に彼の我慢の限界がやってきた。
「暑いんだけど、それに歩きにくいし」
振りほどこうと伸ばされた手が自身の手に触れた瞬間、鈴は回していた手の力を強めた。
グエッとあまり品があるとは言えない声が聞こえたが、聞こえないフリを貫きギューギューと力を加える。
怒られるのは分かっているが、離して逃げられたら私の人生バッドエンドだ!!鈴の離さぬという意志は固かった。
「わかったわかった。こうしよう」
大きなため息をついた総司は、何を思ってか両手を挙げた。何だと顔を上げその両腕を見上げる鈴に出来小さな隙をつき、彼は自身を拘束するように回された腕を見事に引き剥がした。
あわあわとし始める鈴の手を、総司は握りこんだ。
「こうしてたら安心する??逃げる気なんてはなから無いけど」
繋がれた手に視線を落とする鈴に、呆れたように総司は笑った。
「良い根性してるよね。僕の背後にへばりつく奴なんて君くらいだよ」
「粘り強さには自信あり!!」
自信満々に親指を立てるが、総司は別に褒めたつもりは無かったようで微妙そうな表情をした。
「あぁ、そう。ちなみに僕はこれっぽっちも褒めてないからね??」
「……長所は短所でもあるのか」
むむっと鈴が顎に空いた方の手を当てれば、近くを歩く一はクスリと笑った。