Love-ing(アイエヌジー)
私は、クスクス笑っている辻堂監督を、優しく小突く大谷センパイの、「仲が良い、二人の世界」に入れなかった。邪魔しちゃいけない。そんな――桃色の――雰囲気だったから。
だけど、えっちゃんは違った。

えっちゃんは、二人の世界に張られた、桃色のバリアーを崩すように、辻堂監督に向かって、「藤井江津です!」と言った。

それは、私がよく見る、いつもどおりのえっちゃんだった。
キラキラと輝きながら弾けている、美しい玉のような勢いのある・・・。

そこに「何か」が入っている。だけど、そのときの私には分からなかった・・・いや。
本当は、分かっていた。
だけど表に暴くのが怖くて蓋をしたんだと、そのとき――当時15歳の――私は無意識に気づいて、「分からなかった」で終わらせていた。
見て見ぬふりを、していた。

今ではそれを、ちゃんと認めることができる。あれが何であったか。
何の感情であったかを―――。
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