破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
旅に出る前にも、母に『帰ってきた時に無駄遣いしてたら、ボクはまた旅に出て二度と戻らないからね』と釘を刺したほど。

その様子を思い出しながらアーシェリアスは苦笑する。


(まぁ、シュタイルや宿場町の厩舎に比べたら倍の金額だものね)


宿に泊まればいくらか安くなることもあるとはいえ、できれば値上げして欲しくないというのはアーシェリアスも同じ気持ちだ。

そして、お金は油断しているとあっという間に誰かの懐へ移動し戻ってこないことも前世で経験済みのアーシェリアスは、ノアのお金に対する堅実さを好ましく思っている。


(宿代はどれくらいになるかな……)


今のところまだアーシェリアスの持参金に余裕はあるが、無限に湧き出るわけではない。

食料に関してはシーゾーが援助してくれている部分はあるが、正直それでは足りないので節約は必要になってくる。


(屋台みたいに作った料理を売ったりして足しにしないとダメかな)


調理機器はそれなりに揃っているのだ。

いざとなればその方法で行こうと決心すると、隣に立つザックが辺りを見渡す。


「ところで宿はどうするんだ。この分だと空きがない可能性もあるぞ」


厩舎も馬でいっぱいだったが、そうなれば当然人の数も多い。

食べ物屋やお土産屋が並ぶ温泉街を行きかう人波を見て、アーシェリアスは皆を見た。


「ひとつ、訪ねてみたい宿があるの。特に希望がなければ、まずそこが空いているか確認しに行ってもいい?」


問いかけると、特に皆からの反対はなく、アーシェリアスは兄が宿泊したという宿【ゆらたま亭】を探し行き交う人波を縫うように温泉街を進んだ。

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