破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
ゆらたま亭の看板を最初に見つけたのはザックだった。
メインの大通りから脇道に入り、階段を上った先に建つ古く趣のある宿。
兄レオナルドから聞いていた通り、落ち着いた雰囲気でゆっくりと温泉を楽しむには良さそうだ。
アーシェリアスはさっそく扉に手をかけると、エントランスへ足を踏み入れる。
「まぁまぁ、いらっしゃいませ!」
嬉しそうに一行を出迎えたのは、ふっくらとした体つきと柔らかい微笑みを浮かべた女性だ。
年のころは五十くらいだろうか。
女性は目尻の皺を深めて「ご宿泊ですか?」と訊ねた。
「はい。二部屋、空きはありますか?」
「ええ、空いております。広いお部屋もあるので、良かったらそちらへどうぞ。お代は普通のお部屋と同じでいいので」
「えっ、でもそれは申し訳ないです」
「いいんですよ。最近はお客様が減ってしまって、今日もあなた方の他に二組だけですので」
どうやら女性はこの宿の女将らしく、エントランスにいた従業員に部屋の用意をするように伝える。
「そうなんですか? 三年ほど前、兄が訪れた際は空きが一部屋だけだったと……」
人気の宿で、運良く空いていたと語っていたレオナルドの姿を思い浮かべていると、女性は頬に手を当て弱々しく眉を寄せる。
「ええ、その頃はおかげさまで繁盛していました。けれど、昨年末、向かいに大きなお宿が建ってからというもの、お客様はみんなあちらへ」
言われて、確かに道を挟んだ目の前に、貴族屋敷のような立派な建物があったことを思い出した。
メインの大通りから脇道に入り、階段を上った先に建つ古く趣のある宿。
兄レオナルドから聞いていた通り、落ち着いた雰囲気でゆっくりと温泉を楽しむには良さそうだ。
アーシェリアスはさっそく扉に手をかけると、エントランスへ足を踏み入れる。
「まぁまぁ、いらっしゃいませ!」
嬉しそうに一行を出迎えたのは、ふっくらとした体つきと柔らかい微笑みを浮かべた女性だ。
年のころは五十くらいだろうか。
女性は目尻の皺を深めて「ご宿泊ですか?」と訊ねた。
「はい。二部屋、空きはありますか?」
「ええ、空いております。広いお部屋もあるので、良かったらそちらへどうぞ。お代は普通のお部屋と同じでいいので」
「えっ、でもそれは申し訳ないです」
「いいんですよ。最近はお客様が減ってしまって、今日もあなた方の他に二組だけですので」
どうやら女性はこの宿の女将らしく、エントランスにいた従業員に部屋の用意をするように伝える。
「そうなんですか? 三年ほど前、兄が訪れた際は空きが一部屋だけだったと……」
人気の宿で、運良く空いていたと語っていたレオナルドの姿を思い浮かべていると、女性は頬に手を当て弱々しく眉を寄せる。
「ええ、その頃はおかげさまで繁盛していました。けれど、昨年末、向かいに大きなお宿が建ってからというもの、お客様はみんなあちらへ」
言われて、確かに道を挟んだ目の前に、貴族屋敷のような立派な建物があったことを思い出した。