破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
立派な門の横に【愛染(あいぞめ)の湯】と書かれた看板が飾られていて、それを目にした直後、ザックが「ゆらたま亭だ」と宿を見つけ声にしたのだ。


「うちのように古い宿はもう時代遅れなのかしらね」


ふふふと笑う女将にあまり覇気はない。

空元気なのがわかって、アーシェリアスは頭を緩く振った。


「そんな……兄はとてもいい宿だったと言ってました。だからこうして私たちも訪れたんです」


伝えると、女将は瞳を潤ませ「ありがとうございます」とお辞儀をする。


「辛気臭い話をしてしまってごめんなさいね。こうして、訪れてくださる方々を大切に、私たちはおもてなしさせていただきますね。さぁ、お部屋にご案内します」


従業員から部屋の鍵を受け取ると、女将はこちらですと廊下を進み案内をした。

そして、ザックとエヴァンとは男女で部屋を別れ、アーシェリアスは荷物を置くとふよふよと部屋を飛び回るシーゾーを見ながらベッドに腰掛ける。


「向かいの宿は、何がいいのかしら? 温泉が広いとか?」

「あっ、それならボク、いいの持ってるよ」


「ジャーン!」と効果音を口にし笑みを浮かべたノアから手渡されたのは、カリド温泉地のパンフレットだ。

宿だけでなく、飲食店や雑貨屋など、様々な情報が掲載されている。

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