破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「何かできることはないかな……」
女将が苦労しているであろうと想像すると、どうしても前世のことが頭に浮かぶ。
莉亜が手伝っていた母の小料理屋も、決して儲かっているわけではなかった。
贅沢をしなければ日々の生活を送れる程度の収入だ。
それでも、莉亜の母はかまわないようだった。
お金よりも笑顔だと言って、客を料理でもてなしていたのだ。
莉亜の母と、アーシェリアスの母。
そして、ゆらたま亭の女将。
共通するのはもてなしを通して伝える愛情だ。
アーシェリアスはもう一度、パンフレットを開いてマップの愛染の湯に視線を落とす。
(ゆらたま亭の未来を阻む愛染の湯……。なんか、あいつに思えてきたわ)
莉亜を騙した男の姿は、今ではもうなんとなくしか思い出せないが、騙され傷ついた痛みは消えていない。
ゆらたま亭がどうにか一矢報うことができないかと考えていたら、荷物を整理していたノアが「ブリーランの酒場みたいに、この宿にも売りになるものがあるといいのにね」と零した。
直後、アーシェリアスの瞳が大きく見開かれる。
「それよ! 料理で集客! この宿でしか食べれないものを売りにして少しでも客数を伸ばせるか試すのはどうかな!?」
「えー? それだとアーシェがここで働かないとダメじゃん? ボク、アーシェと旅がしたいのにー」
「私だって、幻の料理を諦めるつもりはないわ。それに、私がここで働かなくても、レシピを教えれば大丈夫!」
ゆらたまで働くコックに作り方も教えれば、自分がいなくとも今後もお客様に提供は可能だ。
ノアはアーシェリアスの言葉に「なるほど!」と手を打った。