破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「ティーノさん、この黒糖と同じ量のお水を鍋に入れて、中火より少し弱めの火力で煮てください。時間は十五分くらいです」
「ああ、わかった。煮詰めるのかい?」
「あとで冷やすと少し固まるので、ちょっととろみがつけば特に煮詰めなくても大丈夫です」
「了解」
ウインクと共に答え、鍋に水を入れ始めるティーノを見ながら、ザックは「気に入らないな」と誰ともなしに零し目を細めた。
幸い、ボヤキは誰にも拾われずに済んだが、ウルバーノに粒あんの作り方を教えているアーシェリアスの横をティーノが通った際、「ちょっとごめんよ」とさり気なくアーシェリアスの腰に触れた時は思わず舌打ちしそうになった。
しかし留まることができたのは、隣に立って同じく様子を見守るノアが「あのナンパやろう、あとでボコっていいかな?」とイラついた口調で呟いたからだ。
ザックは「やめておけ」と窘めたが、あまりアーシェリアスにちょっかいを出すのなら何かしら動こうとひっそり心に誓う。
その際、隣であくびをしているエヴァンに邪魔されないようにしなければと留意しているうちに、ウルバーノはアーシェリアスの指示に従い茹でた小豆に砂糖と塩を入れて煮始めた。