破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします

──前世の記憶を取り戻してから一週間。

最初の頃は莉亜として反応することもあったアーシェリアスだったが、次第に転生したという状況に慣れて落ち着き始めていた。


「お嬢様！ 凄いです！」

「ライラの教え方がいいから」

「いいえ、お嬢様の覚えがいいんですよ」


侍女のライラと共に厨房に立つアーシェリアスは、現在おやつのスコーンを作っている。

ライラはアーシェリアスよりも十歳年上で、屋敷に仕える侍女の中でも気さくに接してくれる姉のような存在だ。


（少しベタつくから打ち粉した方がいいかも）


料理好きで小料理屋の手伝いでも色々と調理していた莉亜の記憶を頼りに、アーシェリアスはまだ少し小さな手で小麦粉に手を伸ばす。

そして躊躇うことなく生地に打ち粉をし、手早く折りたたむアーシェリアスの手際の良さに、ライラは感心して声を零した。


「こんなにできるなんて、奥方様の血を受け継いでいらっしゃるからですかね」


それは何気なく発した言葉だったのだが、ライラは自分の配慮のなさに気づいて慌てる。


「ご、ごめんなさい！ 私ったらお嬢様のお気持ちも考えずに……」

「いいの、ライラ。気を使わないで」


気を使わせてしまってはいけないと、笑顔を作って生地を丸い形に整えていると、ライラが眉を下げて微笑んだ。


「無理をなさってはいませんか？」

「え？」