破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします

(いっそこちらから許嫁の権利を手放すことはできないかな……)


そんな風に考えていると、自分しかいないと思っていた庭にひとりの青年を見つけた。

赤味がかった短い髪が風に揺れるのを目にした途端、アーシェリアスはそれが誰であるかを思い出す。


「神様!?」

「んー?」


振り向いた青年は、不思議そうに首を捻った。


「えっと……誰?」

「私! あなたを助けて川に落ちて死んだ女です!」


自分で説明しながら、これは事情を知らない人が聞いたら頭おかしいと思われるやつだなと思い苦笑する。

神様は思い出したのか「ああ、この世界へ転生を望んだ人の子かぁ」と笑みを見せた。


「あの、うちの庭で何を?」

「異世界探訪してるんだよー」

「またですか……今度は誰かを巻き込まずに帰ってくださいね」

「はいはーい」


相変わらずののんきさに懐かしさを覚え、しかし大事なことに気付いて「それはさておき!」とアーシェリアスは神様の前に立つ。


「私が願ったのは主人公ミアへの転生だったのに、別の子に転生してるんですけど……」

「えー? 我、間違えた?」

「がっつりと」

「ごめーん」


悪びれた様子もなく謝る神様にアーシェリアスは肩を落とした。

すると神様が「じゃあお詫びだ」と言うや否や、指をパチンと鳴らす。

その瞬間、何もない空中にボワンと煙が湧き出て、中からまるっこい生き物が飛び出した。

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