破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
アーシェリアスは小声で「失礼しまーす」と断りを入れてからドアノブを回し、月明かりが差し込む部屋へと足を踏み入れた。

ベッドで眠るザックの寝顔はここに連れてきた時よりも穏やかで、アーシェリアスは安堵の息を吐く。


(良かった……)


医者が言っていたのは本当だったと胸を撫で下ろし、踵を返そうとしたがふとあることに気付いて足を止めた。

もしも夜中、ザックが目覚めた時、ここがどこかわからず戸惑うのではないか。

仰向けでゆっくりと呼吸を繰り返すザックをしばし見つめてから、アーシェリアスは一人掛け用の椅子を引っ張ってベッドサイドに置くと腰を下ろした。


(起きるまで側にいれば、とりあえず私を見てアーシェの家かもって思うわよね)


名案だと、口元に薄く笑みを浮かべザックの寝顔を見つめるアーシェリアス。

暖炉の火が爆ぜ、壁に伸びるアーシェリアスの影が僅かに揺らめく。


(そういえば、私が風邪で寝込んでいる時、必ずお母様が付き添ってくれていたっけ)


アーシェの側にいつでもいる。

だから安心して眠りなさいと手を握り、優しい声で子守歌を歌ってくれた愛情あふれる母。

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