破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「何をお作りになるのですか?」
「ザックが目覚めたから、胃に優しいものをと思って」
「お手伝いしましょうか」
「ありがとう。でも、仕事の邪魔したら悪いし大丈夫」
何かあれば遠慮なく声をかけてくださいと言うクロードにもう一度感謝を伝えてから、アーシェリアスは小さな鍋を棚から取り出した。
続いて食糧庫からお米と卵、シーゾーからもらった万能ネギと鶏ガラスープの素を用意する。
(まずはお米を研がないとね)
アーシェリアスが作るのは消化のいい【卵のおじや】。
ひとり分のお米をざるにあけ、付着しているぬかを落として水に浸す。
次に鍋でお湯を沸かしながら、ネギを慣れた手つきで刻んだ。
今でこそ、厨房に立っても驚かれることは少なくなったが、前世の記憶が戻ってから自分で調理したいと包丁を握った時、クロードはアーシェリアスを天才だと褒めちぎった。
いつの間にそんなに上達したのかと感心され、そこで初めて年齢と経験にそぐわないことだったと自覚したのだ。
以来、子供らしくあらねばと気をつけてはいたアーシェリアスだったが、それでもふとした時に莉亜の経験が出てしまい、大人を驚かすことはあった。
そんなアーシェリアスも、少し前に誕生日を迎えて十七歳となり、現在ではアーシェリアスの料理の腕前よりもシーゾーが持ってくるものに屋敷の者たち驚くばかりだ。
(妖精だからって理由でみんなが納得しているのはありがたいよね)
密かに口元に笑みを浮かべ、アーシェリアスは鶏ガラスープを溶かした鍋の中にお米を入れて軽くかき混ぜてから蓋をした。
そうして、鶏ガラの濃厚な香りが厨房に漂う中、たまにかきまぜつつ弱火でコトコト煮て、お米に芯が残っていないことを確認すると、溶き卵を円を描くように少しずつ回し入れてから火を止め、また蓋を乗せる。
余熱で卵が固まるのを待つ間、トレーと器、スプーンを用意し「そろそろいいかな」と蓋を持ち上げると、湯気がふわりと立ち上った。
器に盛り付け、刻んでおいたネギを中央にパラパラと乗せたら完成だ。
「いい匂いですね。以前お嬢様が振る舞ってくださった【らあめん】の香りに似ています」
「さすがクロード。実は同じスープの素を使っているの」
ラーメンを作ったのはちょうど一年ほど前だ。
その頃はまだシーゾーはいなかったが、冬の寒さを感じたらどうしてもラーメンが食べたくなったアーシェリアスは、前世で母とお手製中華麺を作った記憶を引っ張り出し、小麦粉や重曹等を使って中華麺を作った。
そして、鶏ガラスープの作り方もなんとなく覚えていたのでクロードに手伝ってもらいながらラーメンを完成させ、父や兄、屋敷で働く者たちの舌を喜ばせたのだ。
(ラーメン美味しかったんだよね……! ううっ、また食べたくなってきた)
近々作ろうと心に決め、トレーを手にするとザックの元へと急ぎ戻る。