破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「ごちそうさま。これもおやきと同じくらい美味かった。アーシェはシェフなのか?」
「残念ながらただの学生。ザックは?」
「俺?」
首を僅かに傾げたザックに、アーシェリアスはベッドの傍らに立てかけてある剣を指差す。
それは、倒れていたザックが持っていたものだ。
「あなたの剣でしょ? 騎士なの?」
「いや、俺は……ただ、旅をしているんだ」
「旅! いいなぁ」
羨ましがるアーシェリアスに、水をひと口飲んだザックが「旅がしたいのか?」と訊ねた。
「とっても! 幻の料理と呼ばれるものを探したくて。でも、お父様が許してくれないの」
力なく微笑むアーシェリアスを、ザックは真面目な表情で見つめる。
「俺は、アーシェの言葉があったから今旅をしているんだ」
「わ、私?」
まさか自分の名がここで出てくるとは思わず、アーシェリアスは驚き目を丸くした。
「人は自由であるべきだとあの日アーシェが教えてくれた。だから、自由になれたら必ず会いに行くと決めていたんだ」
「誰に?」
「アーシェに」
きっぱりと言い切ったザックの言葉はその眼差しのように真っ直ぐで、アーシェリアスの鼓動が高鳴る。