破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「私に会いに来てくれたの?」
「ああ。それと、おやきにもな」
いやむしろおやきが本命なんじゃと一瞬思ったアーシェリアスだったが、それでもたった一度の出会いを大切にしてくれていたのは素直に嬉しかった。
「ありがとう、ザック」
「いや、礼を言うのは俺の方だ。見つけてくれただけでなく、迷惑をかけた」
ありがとうと礼を述べたザックの話によると、倒れていた理由は手持ちの路銀の多くを、親を亡くし路頭に迷っていたという子に渡してしまい、飲まず食わずが続いたため激しく疲労したからだという。
自分のことより他人を思いやれるザックの優しさに、アーシェリアスは柔らかく目を細めた。
せめて二人で旅をしていれば、もうひとりの路銀で倒れることは免れたのかもと考えたところで閃く。
「そうだ! ザック! 旅に私も連れて行ってくれない?」
「アーシェを? だが、父上が許してくれないんだろ?」
「お父様が許してくれないのはひとり旅は危険だからという理由なの。ザックがいてくれるならきっと大丈夫!」
剣を持つザックと一緒なら心強く思ってくれるはずだと考えるアーシェリアスは、迷って返事をしないザックにトドメをさす。
「それに、ホロ馬車で料理ができるようにするから、連れて行ってくれるならお礼にいつでもおやきを作るわ」
「いいだろう。どんな危険からも全力で守ってやる」
キリッとした顔で即答したザックに、アーシェリアスは手を叩いて喜ぶ。
「ありがとうザック!」
ありがとうおやきと心の中で続けたアーシェリアス。
早いところ国外追放エンド回避の為に動きたいが、まずはザックの回復が優先。
父への交渉はそれからにしようと話、再びザックを休ませてアーシェリアスは軽い足取りで自室へと戻ったのだった。