破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「ちょっと、ザック? 今のはひどくない? デリカシーないと思う!」
「別に俺はアーシェの胸が貧相だとは言っていない」
「ひん!? 」
ザックの無神経な言葉にアーシェリアスは目をひん剥く。
(貧相なのは事実だけど! そして悔しいことにザックの外見は完璧だから仕返しも言えない!)
香ばしくコクのあるビーフシチューを悔し気に口に運ぶアーシェリアス。
ザックの言葉は不快だが、シチューは最高だ。
美味しさでイライラとショックを中和しようと黙々と味わい始めたアーシェリアスを気に留める様子もなく、ザックは掲示板を見に行くと言って席を立った。
町の酒場は何でも屋とも呼ばれていて、様々な情報が集まる店でもある。
どの町の酒場にも掲示板があり、そこには仕事の募集や魔物退治の依頼、王や領主からの布告も貼られている。
路銀についてはしばらく問題ないが、シュタイルより東には森林地帯が多く、魔物が棲みついていることも多い。
ゲル状のスライムや犬の頭を持つコボルトと呼ばれる人型の魔物などは弱いのでザックで簡単に対応できるが、まれに一つ目の巨人、サイクロプスというわりと強い魔物と遭遇することもある。
そういった手強い魔物の目撃情報も掲示板に張り出されているのだ。
その辺りのことは令嬢であるアーシェリアスは疎く、前世でもそういった知識はなかった為にザックに頼らせてもらっている。
マレーアを出てから今のところ魔物に遭遇してはいないが、それは各地に派遣されているファーレンの王立警備隊が街道の安全を守っているからだ。