破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします
「んでぇ~? どうするぅ? 踊れないならおじさんが手取り足取り教えるよぉ?」
酒臭い息を吐きながら酔っ払いが、どうしたものかと困惑するアーシェリアスへと近づいてきたその時、ヒュンという音と同時にアーシェリアスに近寄る男の前を何かが飛ぶ。
そしてそれはドンッとテーブル横の土壁に刺さった。
何事かと壁に刺さる物をアーシェリアスが確認すると、そこには短剣が一本。
一体誰がと飛んできた方向を確認すると、ザックが酔った男を鋭い目で見ていた。
「俺の連れに何か用か」
「ひょぉっ!? ないないない! ちょっと道を尋ねただけだからぁ!」
「そうか、道を。どこに行きたいんだ? 俺が案内してやろう。地獄に行くなら崖から落ちる道もあるぞ」
無表情で物騒なことを告げるザックに、男は酒で赤かった顔を青ざめさせて「ごめんなさいいいいい」と半べそをかきながら店の奥へと逃げて行く。
それを見送ったザックは溜め息を吐いて、壁に刺さったままの短剣を引き抜いた。
「ふ、普通に声をかけても良かったんじゃ」
「それだと余計に揉めるだろう。酔いを醒まさせてやる方が手っ取り早い」
そう言って腰にまわしたベルトホルダーに短剣を戻すのをなんとなく見ながら、アーシェリアスは言われてみれば確かにそうかもと苦笑する。
酔っ払いにやめてくれと言っておとなしく下がるようなら、最初から絡んできたりはしなかっただろうと。
「ザック、助けてくれてありがとう」
「全力で守ると誓ったからな」
当然だと言いたげに微笑むザックに、アーシェリアスは温かな気持ちでもう一度「ありがとう」とお礼を述べた。
(デリカシーはないけど、やっぱり頼りになるのよね)