いつか、眠りにつく日2
「聞いてる? きみに話しかけているんだよ」

耳元で聞こえた声にビクッと体が跳ねた。
ゆるゆると声の聞こえたほうを見れば、見知らぬ男子が立っていた。
すらりとした身長でスリムな体型、やわらかそうなくせっ毛が風に泳いでいる。
これまでも誰かに『話しかけられた』と、喜んだ経験はある。
だけど彼らは私の体 をすり抜けて、後ろにいる誰かと話をはじめるのだ。
そのたびに感じた失望感もやがて薄れ、今では期待なんてしなくなった。

今回もきっと勘違いだろう。

夏風に揺れる山の木々に視線を戻すけれど、やっぱりそこに色は感じられない。
それもどうでもいいことに思えた。

……どうせ地縛霊になれば、なにもかもわからなくなるんだし。

急に視界が翳った気がして顔を上げると、
「きみはなんていう名前?」
目の前に長い足を曲げてしゃがみこむ男子がいた。
彼はまっすぐに私を見ている。

「そうだよ、きみだよ」

「あ……」

久しぶりに出した声はかすれていた。
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