僕と黒猫ニャオ
「おーい!起きておくれよ!おーい!」
ん?誰かの声がする。誰だろ?
うっすらと目を開けると、そこは出口もない白い部屋。
そして目の前には、僕の顔を覗き込む1匹の黒猫がいた。
(猫?なんで、猫がいるんだろ・・・・・・。)
「ハァ・・・・・。やっと起きたか。人間。」
(え・・・・・・。今、喋った?え?)
「えーーーーーーーっ!?」
「うわぁ!ちょっと君!急に叫ばないでくれよぉ。鼓膜が破れそうじゃないか~!」
耳を抑えて迷惑そうにしている猫を見て僕は咄嗟に謝った。
「ご、ごめん!つい、驚いちゃって。」
「ハァ・・・・・・。まぁ、無理もないさ。普段『ニャー』としか鳴かない猫が、いきなり人間の言葉を喋るんだから。僕も最初は君と同じ反応だったよ。」
「そうなんだ・・・・・・。ねぇ、君の名前は?」
「僕?僕の名前は、ニャオ。よろしく!で、君は?」
「僕は、犬山勇気。よろしくニャオ。」
「ねぇ、せっかくだから握手しようよ!ここで会ったのも何かの縁だし、それに人間は、挨拶の時握手をするんだろ?」
「フフッ。そうだね。」
ぷにぷにとした肉球の付いた手を差し出すニャオ。
その手に僕もしっかりと握手を交わし、お互い笑顔になった。
(こうやって誰かと話をしたのは、久しぶりだな〜。)
「ねぇ、ニャオ。ひとつ訊いていいかな?」
「良いよ!」
「どうして、ここに来たの?」
ニャオは、少し寂しそうな顔をした後、話し始めた。
「僕ね・・・・・・。死んだんだ。昔は人間に飼われていたんだ。小学生の女の子が野良猫だった僕を拾ってきて、とっても大切に育てられた。でも、段々大きくなってきてイタズラもするようになってきてから、ある日車に乗せられて、〖保健所〗って所に連れて来られた。檻に入れられて何日かそこで過ごしたんだけど、でも今日は、突然檻から出された。てっきり遊んでくれるのかご主人様が迎えに来てくれたのかな?って思ったけど、全然違った。仲間達と一緒に冷たい金属の部屋に連れてこられて閉じ込められちゃったんだ。『助けて!助けて!』って叫んでいる子とか出してもらうために爪で何度も何度も引っ掻いている子もいた。小さな窓から僕を連れてきたおじさんが見えたんだ。「ごめんな。」って言ってボタンを押したんだ。その後、焦げるような匂いがして息苦しくなって・・・・・。気づいた時には、ここにいたんだ。でも、ここがどういう所なのかは分からないけどね。」
「そっか・・・・・。そんなことが。」
「それじゃあ、次は勇気の番だね。君は、どうしてここに来たの?」
「っ!」
段々と記憶が蘇ってくる。
いじめられたこと。
誰も助けてくれなかったこと。
先生や家族にも相談できなかったこと。
「話したくなければ話さなくても良いよ?」
「いや、大丈夫。話すよ。僕さ、いじめられてたんだ。わけも分からずいじめられて、物を隠されたり、悪口も言われたりして。先生にも相談しようかと思ったけど、また、ひどくされるのが怖くて。だから、遺書を書いてマンションから飛び降り自殺したんだ。」
「嫌なら、逃げたり行かなければ良いのに・・・・・・。」
「そういうわけにもいかないんだよ。勉強しなきゃいけないし、みんなに置いていかれちゃうから・・・・・。」
「ふーん。人間って変なの。学校や勉強って命よりも大切なものなのかい?いくら考えても分かんないよ。」
真剣に腕組をして考えているニャオを見て、僕もふと、考えた。
(命よりも大切・・・・・・か。)
「う〜ん。やっぱり分かんないや。ごめんね・・・・・・。」
「あのっ!人間が、ひどいことして・・・・・・ごめん!」
「・・・・・・?どうして謝ってるの?君は悪いことしてないのに。なんで?」
「だって、僕も同じ人間だから。」
「確かに君は人間だけど、悪いことするような人間には見えないよ!おじさんもさ、本心でやっていたわけじゃないと思うしあの家族だってあの子が拾ってくれなかったら、僕は随分前に死んでかもしれないし。だから、人間達を憎んでるわけじゃないし、むしろ感謝してるんだ!」
「君は優しいね。ニャオ。うぅぅ・・・・・・。」
「勇気!どうして泣いてるの!?」
「ごめん。抑えられらかった。」
「君は優しいね。僕の為に泣いてくれたのは君が初めてだよ。だから泣かないで!勇気。」
「うん。ありがとうニャオ。」