だ き し め て
「……ねぇ、高野くん」
たぶん、心の中の言葉だったんだろう。口に出ているとは、思ってもいなかったんだろう。
「ありがとう」
笑いかけられて、眉が歪によっていて、泣きかけで、悔しくなった。嫌だ。本当は、転校なんてしたくない。伊花に言いたい。すき、という言葉だって隠していたくない。
「……こちらこそ、ありがとう」
……弱虫。最悪だ。何も言えなかった。
連絡先。新しい住所。言いたかった。下心を悟られそうで、恐れて、口をつぐむ。
連絡先。伊花の住所。聞きたかった。怖かった。
「……」
悔しい。首にぴったりとくっついたチェーンのネックレスが、やけに冷たかった。痒くなって、ボタンのとまっていないワイシャツの上の部分から、がしがしと首筋をかく。