だ き し め て



「ネックレスしてるの?」

「……うん。校則違反なんだけど、バレないように」

「意外とやんちゃなんだね」

伊花。笑わないで。そんなに優しく、笑いかけないで。



……行けなくなる。から。



「こんにちは」

本を借りにカウンターにやってきた生徒がいた。伊花が対応をする。



……俺は……運に賭けることにした。

傍にあった紙を適当に手にして、 裏紙の余白をつかって、文字を書く。思いをえがく。紙にのせる。



「っ、」

届いてほしくて、届いたらちょっと恥ずかしいな。

最後にネックレスを外して、それで……。



心をだきしめられたような気がした。弱い。俺は弱い。だけど。



「お別れの日、駅まで行くから……見つけてね。ひと、いっぱいいそうだけど」

いたずらそうに微笑まれて、弱い心をだきしめられて、強くなれる。伊花の存在を忘れようとしていた、弱い心を忘れられる。あたためて、もらえて。


< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop