橙色の糸
次に意識が戻った時もやはり視界は真っ暗だったが、吸い込む空気に微かに混じる消毒液のような独特の臭いからここは病院だということと、鳥のさえずりや、忙しく走る車の音が今は昼間だということを教えてくれた。

「あっ!!母さん!父さんが起きたよ!!」

「あら、良かったわ〜アナタ、気分はどう?」

「その声は…俊介と奏恵か?」

「そうだよ!!よく分かったね!」

目は見えなくても、自分の愛する息子と妻だというハッキリとした確信があった。

「やっぱりな。心配かけてゴメンな。でも、お前達が無事で本当に良かったよ。」

___ガラガラッ

不意に病室の扉の開く音がした。

「あら、目が覚めていたんですね。何はともあれ状態が安定して良かったです。」

と、少し前にも聞いたような声が聞こえた。

「はい、どうもありがとうございます。…所で、私の目はどうなっているのか教えて頂けませんか?」

看護師さんが言いにくそうにぽつりぽつり教えてくれたことは、まず自分は事故の時にガラスで両目の眼球に傷を負い視力を失ってしまい、回復の見込みは無いということ。それから、俺の妻と息子がその事故で即死したということだ。

最後に、しばらくの間はその看護師さんが俺の面倒をみてくれるらしく、自身を"山口"と名乗った。

「家族を亡くされたことはお辛いでしょう…ゆっくりでいいので、気持ちの整理をつけていきましょうね。」

そう言い残して、山口さんは去っていった。



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