橙色の糸
山口さんが去った後、俺はただ呆然としていた。

視力など問題ではない。俺の家族が即死したということが信じられなかった。

(どういうことだ?だってさっきまで奏恵と俊介の声が聞こえていたのに…?)

そう。俺は山口さんが部屋に入ってくる前に2人と会話していたのだ。それどころか、微かな記憶ではあるが病院に運び込まれて間もない時も2人は必死に俺に呼びかけてくれていたのだ。

__死んでいるなんてありえない。信じたくない。

「…奏恵?俊介?そこにいるのか?」

恐る恐る尋ねてみると、

「えぇ、いるわよ。」「うん。」

2人の声は確かに聞こえる。これは幻聴なのだろうか?

「…どういうことなんだ?」

「あのね、山口さんが言ってたことはホントよ。詳しいことはよく分からないんだけど…」

「僕達、ユーレイになっちゃったのかもしれないんだ…」

思わず口をついて出た言葉に2人の声が答える。

「ユーレイって…まさかそんな馬鹿な…」

「でも実際、僕と母さんのこと誰にも見えてないみたいなんだ!父さんに触ろうと思っても…ほら、こんな風にすり抜けちゃうんだ。」

一瞬ゾクッとした感覚に襲われ身震いする。

「…でも、アナタに私達の声が聞こえて良かったわ。これからどうすればいいか、みんなで考えていきましょ!」

自分の視力は失い、家族は幽霊になり色々追いついていないが、声だけだとしても家族の存在が近くに感じられるのは俺を安心させてくれた。

「…そうだな。」
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