勇太くんしか愛せない
その日の深夜。
勇太くんはようやく帰ってきた。
腕にはたくさんの荷物。私がそれらを受け取ろうとしても、華麗にかわされてしまう。何事もなかったかのように、自然に鮮やかに。
勇太くんは私の何でも受け入れてくれるけど、こういうのは別。受け入れてくれないんだよね。
それが勇太くんなりの気遣いなのだということも、大切にしてくれているが故だってこと、私はわかっているつもりだけど。
その気遣いが嬉しくもあり、さみしくもある。これが勇太くんのアイデンティティだと言ってしまえば、まあそうなのかもしれないけれど。
「ただいま、遅くなっちゃった」
「おかえり。仕事お疲れ様」
玄関から続く廊下を歩く勇太くんを、ただただ後ろから追いかける私。
え、意味なくない?これ。一個くらい荷物持たせてくれてもいいのよ勇太くん。
「あー君がこんな時間まで起きててくれたの、嬉しいけど複雑」
「今日は仕事なかったから全然平気だよ?それに、私が会いたかったから起きてただけだし気にしないで」
そう、私の下心でしかないのである。
複雑なんて思ってもらえるようなことはしていない。
そんなことを内心思っていると、勇太くんの背中が一瞬こわばった。
「〜〜っ……くそ、可愛いな」
そしてなぜか少し怒ったように、大量の荷物を腕に下げたまま、私の頰やおでこ、鼻の頭にちゅ、ちゅとキスを落としてくる勇太くん。
よくわからないけど、可愛いって言ってもらえるのは嬉しい。
それに、普段は自分の感情に対して無頓着な勇太くんが私を見て怒ったような反応をしてくれるのもすごく嬉しい。
小鳥がついばんでいくようなキスを受け入れながら、私の目線は勇太くんの腕に下がった荷物に移る。
「……あ、勇太くん。その荷物」
「そうそう、こっちは君にお土産なんだ。食べる?でも夜遅いからやめとく?」
「やめとかない、食べる♡」
「はは、そういうと思った〜」
勇太くんは私に甘すぎる。こんなに甘やかしてどうするの?私にたくさん食べ物を与えて太ったところで、献上でもするの?屠殺場に連れて行くの?としか考えられないレベル。
「……はっ、違う違う、お土産の話じゃなくてさ。勇太くんその腕…」
「腕?……あー、我ながら血管キモチワルいね」
えへへ、と眉毛を下げて笑う勇太くんが可愛い。
それに腕、キモチワルくなんかないですけど?!むしろそれ好きっていう意味で言ったのに。
重たい荷物を持っているせいで、採血10本くらい綺麗に取れそうな、筋と血管が浮き出たその腕。
私の腕とは全然違う。太さも、筋張った感じも、血管が浮き出る感じも。
いつも物腰の柔らかい勇太くんだから、こういうところで“雄”を感じると、なんだか私はどうしようもなくなってしまう。
勇太くんの“雄”を意識してしまった瞬間から照れてしまって、しばらく上手く接することができなくなる。夫婦なのにな、おかしいな……。
「ん?どうかした?そんな黙って」
私があれやこれや悶々としている間に、勇太くんは荷解きを始めようと床に全ての荷物を降ろしていた。
「や、私って変態なのかなあって……」
「え?なに急に」
「血管フェチだったかな私って……そんな性癖いつからあったんだろう」
いや、待て待て私。
上手く接せないとか以前に、心の声が素直に出すぎてしまった。
「血管フェチ?……ふぅん」
勇太くんは一瞬自分の腕に目を移し、たまに見せる妖しい笑みをした。
イタズラっぽくて大人っぽい、あの笑みだ。こんなの絶対テレビでは見せられない。例え万が一月9とかでそういう役がまわってきたとしてもやめてほしい。するなら別の顔してね、勇太くん。
「君の旦那なのに知らなかったな、そういう趣味があったなんて……」
あ、これは勇太くん、きっと何か企んでいる。私このパターン知ってる。
「ちょっとおいで」
「へ、な、なに?!」
腕を掴まれたかと思うと、ぐいぐい腕を引かれ、二人掛けソファの前に着いたところでトンッと肩を押されて、無理やり座らされる。
勇太くんもすぐに私の真横に座った。すでにちょっと満足そうな顔をしている勇太くん。どうしたんだろう。
「そんなに俺の腕の血管が好きならさ」
「ん」
「はい。腕、好きにしていいよ」
勇太くんの腕が、ソファに座っている私の上半身の上に投げ出される。
「!?!?」
いや、えっとあの、その、勇太くんの腕が、私の胸とかに当たってるんですけど、これはわざと?無意識?ど、どういうおつもり?
どちらにせよ、勇太くんの変なスイッチを入れてしまったらしい。
「そんなに腕の血管が好きなんでしょ?ほら、もっと近くで見たら?」
「うう……血管好き」
ぐいぐい押し付けられる腕。欲望に負けて、私は勇太くんの腕を取った。
こんな機会、もうないかもしれないもの。
「ゆ、勇太くん、本当になんでもしていいの……?」
「お好きにどうぞ」
「どうも……」
きめ細かい肌質の勇太くんの腕。
触るとゴツゴツしていて、血管がザクザク流れているのがわかる。
私の腕にも多少は血管が浮き出ているけど、勇太くんと比べると大したことなくて、ひ弱そうな腕だ。まるで生命力を感じない。
でも勇太くんの腕はたくましく生きてるなと思うし、いつも物腰がやわらかめの勇太くんの中身とちぐはぐで、そこがまた良いなと思う。好き。
「……はあ、好き。この血管が好き。特にこの腕の関節の骨?ここからずーっとザクザク脈打って長く伸びている血管、ここ最高」
「ふーん……」
あれ?勇太くんの反応がおかしい。さっきまで満足げな顔をしていたと思ったら、今度はなんだか不貞腐れた顔をしている。
「……で、それだけ?見るだけでいーんだ」
不貞腐れた顔してるな、どうしたのかな、と思っていたら勇太くんの表情がまたガラリと変わって、大人の不敵な笑みを見せてくる。
今度はなんなの。勇太くんの一挙手一投足に振り回されすぎだ。
勇太くんはようやく帰ってきた。
腕にはたくさんの荷物。私がそれらを受け取ろうとしても、華麗にかわされてしまう。何事もなかったかのように、自然に鮮やかに。
勇太くんは私の何でも受け入れてくれるけど、こういうのは別。受け入れてくれないんだよね。
それが勇太くんなりの気遣いなのだということも、大切にしてくれているが故だってこと、私はわかっているつもりだけど。
その気遣いが嬉しくもあり、さみしくもある。これが勇太くんのアイデンティティだと言ってしまえば、まあそうなのかもしれないけれど。
「ただいま、遅くなっちゃった」
「おかえり。仕事お疲れ様」
玄関から続く廊下を歩く勇太くんを、ただただ後ろから追いかける私。
え、意味なくない?これ。一個くらい荷物持たせてくれてもいいのよ勇太くん。
「あー君がこんな時間まで起きててくれたの、嬉しいけど複雑」
「今日は仕事なかったから全然平気だよ?それに、私が会いたかったから起きてただけだし気にしないで」
そう、私の下心でしかないのである。
複雑なんて思ってもらえるようなことはしていない。
そんなことを内心思っていると、勇太くんの背中が一瞬こわばった。
「〜〜っ……くそ、可愛いな」
そしてなぜか少し怒ったように、大量の荷物を腕に下げたまま、私の頰やおでこ、鼻の頭にちゅ、ちゅとキスを落としてくる勇太くん。
よくわからないけど、可愛いって言ってもらえるのは嬉しい。
それに、普段は自分の感情に対して無頓着な勇太くんが私を見て怒ったような反応をしてくれるのもすごく嬉しい。
小鳥がついばんでいくようなキスを受け入れながら、私の目線は勇太くんの腕に下がった荷物に移る。
「……あ、勇太くん。その荷物」
「そうそう、こっちは君にお土産なんだ。食べる?でも夜遅いからやめとく?」
「やめとかない、食べる♡」
「はは、そういうと思った〜」
勇太くんは私に甘すぎる。こんなに甘やかしてどうするの?私にたくさん食べ物を与えて太ったところで、献上でもするの?屠殺場に連れて行くの?としか考えられないレベル。
「……はっ、違う違う、お土産の話じゃなくてさ。勇太くんその腕…」
「腕?……あー、我ながら血管キモチワルいね」
えへへ、と眉毛を下げて笑う勇太くんが可愛い。
それに腕、キモチワルくなんかないですけど?!むしろそれ好きっていう意味で言ったのに。
重たい荷物を持っているせいで、採血10本くらい綺麗に取れそうな、筋と血管が浮き出たその腕。
私の腕とは全然違う。太さも、筋張った感じも、血管が浮き出る感じも。
いつも物腰の柔らかい勇太くんだから、こういうところで“雄”を感じると、なんだか私はどうしようもなくなってしまう。
勇太くんの“雄”を意識してしまった瞬間から照れてしまって、しばらく上手く接することができなくなる。夫婦なのにな、おかしいな……。
「ん?どうかした?そんな黙って」
私があれやこれや悶々としている間に、勇太くんは荷解きを始めようと床に全ての荷物を降ろしていた。
「や、私って変態なのかなあって……」
「え?なに急に」
「血管フェチだったかな私って……そんな性癖いつからあったんだろう」
いや、待て待て私。
上手く接せないとか以前に、心の声が素直に出すぎてしまった。
「血管フェチ?……ふぅん」
勇太くんは一瞬自分の腕に目を移し、たまに見せる妖しい笑みをした。
イタズラっぽくて大人っぽい、あの笑みだ。こんなの絶対テレビでは見せられない。例え万が一月9とかでそういう役がまわってきたとしてもやめてほしい。するなら別の顔してね、勇太くん。
「君の旦那なのに知らなかったな、そういう趣味があったなんて……」
あ、これは勇太くん、きっと何か企んでいる。私このパターン知ってる。
「ちょっとおいで」
「へ、な、なに?!」
腕を掴まれたかと思うと、ぐいぐい腕を引かれ、二人掛けソファの前に着いたところでトンッと肩を押されて、無理やり座らされる。
勇太くんもすぐに私の真横に座った。すでにちょっと満足そうな顔をしている勇太くん。どうしたんだろう。
「そんなに俺の腕の血管が好きならさ」
「ん」
「はい。腕、好きにしていいよ」
勇太くんの腕が、ソファに座っている私の上半身の上に投げ出される。
「!?!?」
いや、えっとあの、その、勇太くんの腕が、私の胸とかに当たってるんですけど、これはわざと?無意識?ど、どういうおつもり?
どちらにせよ、勇太くんの変なスイッチを入れてしまったらしい。
「そんなに腕の血管が好きなんでしょ?ほら、もっと近くで見たら?」
「うう……血管好き」
ぐいぐい押し付けられる腕。欲望に負けて、私は勇太くんの腕を取った。
こんな機会、もうないかもしれないもの。
「ゆ、勇太くん、本当になんでもしていいの……?」
「お好きにどうぞ」
「どうも……」
きめ細かい肌質の勇太くんの腕。
触るとゴツゴツしていて、血管がザクザク流れているのがわかる。
私の腕にも多少は血管が浮き出ているけど、勇太くんと比べると大したことなくて、ひ弱そうな腕だ。まるで生命力を感じない。
でも勇太くんの腕はたくましく生きてるなと思うし、いつも物腰がやわらかめの勇太くんの中身とちぐはぐで、そこがまた良いなと思う。好き。
「……はあ、好き。この血管が好き。特にこの腕の関節の骨?ここからずーっとザクザク脈打って長く伸びている血管、ここ最高」
「ふーん……」
あれ?勇太くんの反応がおかしい。さっきまで満足げな顔をしていたと思ったら、今度はなんだか不貞腐れた顔をしている。
「……で、それだけ?見るだけでいーんだ」
不貞腐れた顔してるな、どうしたのかな、と思っていたら勇太くんの表情がまたガラリと変わって、大人の不敵な笑みを見せてくる。
今度はなんなの。勇太くんの一挙手一投足に振り回されすぎだ。