仮眠室で愛を叫べば
二人が病室から出ていったあと手元の携帯に目を落とす。

手元には二台の携帯がある。
現在使用しているものと、古い携帯。昨日兄が届けてくれた。

宮前先生との写真は古い携帯にたくさんあった。

そして事件にあう数日前に宮前先生に送ったたった一言のメッセージ。

『さようなら』

私たちは付き合っていたが別れたのではないんだろうか。

なんとなく今のようにまわりに探りを入れても別れた事実がつかめない。

忘れているのは怪我のせいもあるが私の中で辛くて忘れたい記憶なのかもしれない…。

だったらなおさら思い出さなくてはいけない。

心配で今も恋人のように振る舞ってくれているなら、私はこれ以上深入りする前にこの気持ちを手放さなければいけないのだ。

幸せそうに笑う携帯画面をみつめ、先程までの笑顔もきえて涙がポトリっと落ちた。
< 89 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop