君の罠 【改訂版】

「みどりおはよー」

「ちいちゃん！おはよう！」

夏休みが終わり、新学期を迎えた９月１日。
校門を抜けて一人歩いていると、クラスメイトが私を呼ぶ声がして振り返る。一カ月ぶりに見るその顔は、この夏の楽しさを証明するように日に焼けして、自然と頬が緩む。

「みどり、髪切ったんだね！」

「そうなの！変じゃない？」

「うん！可愛い！」

一週間前に切ったばかりの髪は、私の中では大きな決断で、登校する道すがらもずっとそわそわしていた。だからクラスメイトの言葉に、心底ほっとする。

ハル君、気づくかな……。

一ノ瀬緑(ｲﾁﾉｾ ﾐﾄﾞﾘ)、城西高校の２年生。
同じクラスのハル君に片想い中の為、気になるのはそのことばかり。

「みどり、千里、おはよー」
「緑ちゃん髪切ったんだ！似合ってる！」

友達から声を掛けられる度に、ちいちゃんと二人立ち止まり、私たちはのんびりのんびり教室に向かう。