君の罠 【改訂版】
2年3組と札がかけられた教室の前に着くと、いつもと変わらず扉は開けっ放しになっていて、中から賑やかな声が漏れてくる。
教室の中へ、私は足を踏み入れる。
一カ月ぶりに顔を合わせる面々と目が合う度に挨拶を交わし、私は窓側の最前列に出来ている数人の生徒の輪へと近づいていく。
その場所が、このクラスの中心だと言う人もいる。
だからみんな、意識的にその輪の横を通ってからそれぞれの場所に行く。
何やら楽しそうに笑い合っている彼らの後ろに立った私は、ゆっくりと深呼吸をした後で、「おはよう」と声を掛けようとした。
だけどそれより早くに振り返った男子生徒が、驚いた顔で私を指さした。
「あー!緑ちゃんが髪切ってる!」
「え?うわっ!マジだ!一ノ瀬、超可愛いんだけど!」
「本当だ!いつ切ったの?」
「この前は長かったよね?最近?」
「似合う似合う」
村上君の一声から、ものすごい勢いで喋りだすクラスメイト達に、私は慌てて輪の中に飛び込む。
「ありがとう。そうなの、あの後で」
順番に一人一人の顔を見ながら答えている私に、ちいちゃんが「相変わらずだね」と笑いながら自分のグループの方へと歩いていく。
私はそれに手を振って、またこのクラスの中心である彼らとの会話に戻る。
それからそっと、視線を落とした。