元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!【番外編】
互いにアウトサイダーである以上、結婚を急くつもりはなかったけれど、ツグミが女だと広く知れ渡ってしまったことが状況を変えた。
ゲンツやラデツキーがツグミに深い愛情を持っていることは分かっていた。それが親愛で止まっていたのは、ツグミが〝男〟だったからに他ならない。
……いや、ゲンツにいたってはそれでも親愛以上の感情を抱いていたかもしれない。もともと情深い性格ではあるけれど、ツグミへの執着は仲間や弟子に抱くそれを超えているように見えた。
もしかしたら彼はツグミに対する想いに戸惑いながら、それを師弟愛と自分に言い聞かせていたのではないか。
それを感じ取っていたからこそツグミが女だとバレたとき、自分はあんなに焦ったのではないかと、メッテルニヒは思い返す。
――誰にも渡したくない。それが例え親友であっても。
そんな想いが、あのとき彼に偽装結婚という手段をとらせた。
もしあのとき、ツグミを強引に自分の妻にしていなかったら。考えるまでもなくゲンツに、あるいはラデツキーにツグミは求婚されていただろう。
あのとき早急にツグミを妻にしたのは正解だったと今でも思う。……〝クレメンス・メッテルニヒ〟としてかけがえのない友情が壊れたことを、悔やんではいない。