元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!【番外編】
 
1832年5月。

ボローニャに赴任したプロケシュ大使の館に、ひとりの客人が訪れた。

「よう。元気でやってるか」

「はい。ご無沙汰しております」

出迎えたプロケシュ大使に片手を上げ軽く微笑むその男は、フリードリヒ・ゲンツ。彼が宰相秘書官長を辞め四年が経っていた。

プロケシュ大使は彼を快く迎え、さっそく広間へ通す。

ゲンツとプロケシュ大使の交流は、かれこれ五年以上に及んでいた。それこそプロケシュ大使がライヒシュタット公と出会う前からである。

ゲンツはオーストリアの政治顧問官になる前は有名な政治評論家だった。特に彼は文筆の才があり、多くの政治的著作を手掛けている。

戦史研究家だったプロケシュ大使は、同じ文章家としてゲンツに尊敬の念を持っていた。

そんなふたりは時に手紙のやりとりをしたり、互いに顔を合わせ話をしたりしながら交流を重ねてきた。

メッテルニヒの片腕とライヒシュタット公の親友という立場から見れば敵同士のようにも思えるが、人間関係、ましてや政治の世界に於いてのそれはそんな単純なものではない。

それこそゲンツとメッテルニヒだって、何十回と意見を戦わせ時に大喧嘩をしながらも、互いになくてはならない相棒でい続けたのだから。
 
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