元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!【番外編】
ウィーン三区、ヴェルベレーデ宮殿の目と鼻の先にあるレン通りに、その館はあった。
緑豊かな中庭を抱え、マンサード屋根のロココな雰囲気残る三階建てのこの館は、この国で行政のトップに立つメッテルニヒ宰相閣下のものだ。
しかし、宰相閣下ご自慢のこのメッテルニヒ邸。今は改装工事中で屋敷の三分の一近くが使えなくなっている。
ちょうど夏季休暇の時期なのでメッテルニヒはバーデンの別荘で過ごしているが、彼は工事の進捗を気にしてはちょくちょく屋敷の様子を見にきていた。
「工事はどうだ。順調か」
「はい。オーダー通り、寝室とブレックファストルームを優先的に進めております」
建築責任者に案内され、メッテルニヒはほとんど改装の終わった寝室までやって来た。
以前あった部屋をふたつ繋げたせいで、室内はかなり広々としている。壁には最上級のダマスク織の壁紙が貼られ、天井からは正餐室並みの煌びやかなシャンデリアが下がっている。それでいて壁には燭台用のフックも多く取り付けられ、部屋の明るさは自由自在といったところだ。
「家具は来週には運び込めるかと」
「ああ。ベッドは大きいから気をつけて運んでくれ。それからドレッサーは妻の部屋とこちらに一台ずつ置くように」
責任者の男とあれこれ打ち合わせをしながら、メッテルニヒは真新しくなった寝室を眺めて思う。
ふたりのために用意した寝室――果たして我が妻はお気に召してくれるだろうか、と。