元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!【番外編】
 
メッテルニヒが半ば強引な手立てでツグミを妻にしてから三ヶ月が経っていた。

そろそろ夏も終わりを迎えようかというのに、彼女は夏季休暇を取って夫と避暑地で過ごすどころか、なんと休みを返上してずっとシェーンブルン宮殿に残っている。

なんでもライヒシュタット公の体調が心配だからという理由らしいが、ウィーンの貴族たちの間では実に面白おかしい噂に変換され、まことしやかに流れていた。

「宰相閣下の奥様は夫と夏季休暇を過ごすのが嫌で、シェーンブルンから出てこないそうよ」

「大公妃秘書官長殿は以前から色恋に興味がないと噂されていたけれど、どうやらご自分の夫にもあまり興味がないみたいだ」

なんとも耳障りな噂ではあるが、いまいち説得力のある反論もできないので、メッテルニヒは聞き流すことにしている。

ツグミが人一倍……いや、十倍は仕事熱心なことは知っている。彼女は夜会やカジノも楽しんだりするけれど、それはあくまで仕事に由来する社交だからであって、ツグミ自身が娯楽を楽しんでいる姿を見たことがない。

むしろ仕事をしているときが一番活き活きしているように見えるので、彼女にとって最高の娯楽は仕事なのかもしれないが。

しかしだからといって。彼女が夏季休暇のバカンスを蹴ってシェーンブルンに閉じこもるなど、誰が予想しただろうか。

婚姻届けを六年前に出したと偽装したとはいえ、実質ふたりは新婚だ。メッテルニヒはこの夏のバカンスをちょっとした新婚旅行のつもりでいた。
 
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