6月の屋上
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気温も上がりつつある午前10時。
霧雨が降り始めていた。
一人の少女は退屈な日本史の授業をサボり
校内を散歩していた。
「……ゥ…」
突然どこからか呻き声のようなものが聞こえた。
少女は辺りを少し探すが誰もいない。
「……カッ…ハッ」
また聞こえた。
今度は少し位置がわかった気がする。
どうやら屋上の方だ。
少女は興味本位で屋上へ向かった。
そっと屋上の扉を少し開く。
と、その光景に息を呑んだ。
綺麗な顔の男が、
綺麗な顔を乱した女の上に跨り
両手で首を絞めていた。
綺麗な顔の女は口を必死に開け、
酸素を取り込もうとしている。
男は首に手を掛けたまま女の開いた口に
自身の口を近づけていった。
そのまま女の口の中に舌を突っ込み
グチュグチュと掻き回した。
段々、女は白目を剥き体を痙攣させ始めた。
その間も男は手に力を入れている。
残酷で異様な光景だ。
人を呼ばなければ。
少女はそう思うのに身体が動かない、
口の中が渇いて声が出ない。
やがて女の痙攣は止まりぐったりと項垂れた。
男はそこでやっと手の力を緩め
首から静かに離した。
そのままの手で横たわった女の瞼を閉じさせ、
袖で女の口元を拭った。
男は口角を上げ、随分と綺麗に微笑んだ。
そして、
「ああ、綺麗な眠り姫だ」
と低く落ち着いた声で言い、
青白くなり始めた女の唇に
何度も何度もキスを落とした。
霧雨は少しずつ粒を大きくし、
普通の雨となり男女を冷たくしていた。
やがて男は
女の夏服のブラウスのボタンに手を掛け、
一つ一つ丁寧に外し始めた。
露わになった女の傷一つない綺麗な肌。
そこに男は何度もキスを落としながら、
手で女の体を嬲り始めた。
息をしていない女は当然抵抗なんかしない。
そして男は女のスカートに手を掛け、
あろう事かセックスを始めた。
なんの反応も示さない女の体に
男は何度も腰を打ち付け涙を流しながら
女の胸元にキスを落としていた。
少女は何故かわからないが
その光景が綺麗だと思ってしまった。
やがて男は「ウッ」と小さく呻き声を上げ
少し体を震わせてから
制服が乱れたままの女の上に
ぐったりと覆い被さった。
また少し経ってから男は起き上がり
女と自身の乱れた制服を綺麗に直し、
女に長い口づけをした。
男は口づけが終わると名残惜しそうに
顔を女から離し、女の頭を人撫でした。
そして男は自身の制服のポケットから
折り畳み式のナイフを取り出た。
少女は何を始めるんだろうと思った、
次の瞬間。
ブシュッ……
男の首から勢いよく赤い液体が噴き出した。
その液体は男の制服、
男が跨ったままの女の制服や身体、顔を染め、
屋上の床も赤く染め始めた。
男は女の上に体を預け、
左手は女の右手と絡め
右手は女の頭に乗せ
愛おしそうに目を閉じた。
赤が広がる。
雨水で出来た水溜まりが赤に染ってゆく。
少女の鼻をツンっと生臭さが駆け抜ける。
少女は涙していた。
それは恐怖からなのかはわからない。
その後の少女の記憶は曖昧だ。
学校が騒がしくなり、警察が来た。
少女は救急車で連れていかれ、
医師や警察官に色々なことを聞かれた。
少女は曖昧にしか答えられなかった。
混乱していた。
ただ、脳裏に焼き付いたその光景は
残酷で綺麗だった。
とても、美しかった。
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